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「自制心」すなわち我慢強さは、人生においてもっとも大切な力です。
自制心が強い子は、成長して成績優秀となり、仲間や教師達から好かれ、大人になってからはより給料の高い職業につき、BMI(肥満指数)がより低く、中年になっても太りにくいことがわかっています。
そして、この力は体力と同じように、使えば消耗して弱くなり、適切なトレーニングを積めば強く育てることができることもまた、実験により確認されています。
だから私達は、生徒やお父さんお母さんがイメージしやすいように、この自制心のことを「心の体力」と呼んでいます。
では、「心の体力」はどのようなときに使うのでしょうか?
まずはそれを知った上で、無駄遣いしないようにしなければいけません。
心の体力を使うのは、日常生活の中では主に以下の4つでした。
1.行動をコントロールする
2.感情をコントロールする
3.欲求をコントロールする
4.決断を下す
このうちの「行動のコントロール」と「感情のコントロール」の2つについて、前回の「自制心は何をすると消耗するか1」に書きました。
今回はその続き、「欲求のコントロール」と「決断」についてです。
3:欲求をコントロールする
何かしたいことを我慢するのには心のエネルギーが必要です。
ゲームを我慢する、マンガを我慢する、外で友だちと遊びたいのを我慢するなど、何かを我慢するたびに心の体力を消耗していきます。
そして、難しい問題に我慢強く取り組むエネルギーを失っていくのです。
これは例えば、お菓子やジュース、あるいは服や靴など、何か欲しいものを買うのを我慢することでも同じです。
このことを確かめた実験があります。
空腹な被験者を、焼きたてのクッキーの香りが充満する実験室に集めました。
あるグループに対しては、机にクッキー・チョコレート・二十日大根(ラディッシュ)を置いておきます。
そして、どれも好きに食べてよいと伝えます。
別のあるグループに対しても、同様に机にクッキー・チョコレート・ラディッシュ(二十日大根)を置いておきます。
ただし、こちらのグループは、ラディッシュ食べて良いが、クッキー・チョコレートは食べてはいけないと伝えます。
また、別のあるグループに対しては、机の上に何も置きませんでした。
しばらく部屋に待機させた後、別の部屋へ連れて行き、図形パズルを解くように指示をします。
このパズルは知能検査のためという名目ですが、実際は諦めるまでの時間を計り、忍耐力を試すためのもので、絶対に解けないように作られています。
結果は、自由に食べて良いと言われたグループと、何も机に置かれなかったグループでは平均して20分間パズルに取り組んだのに対して、クッキーとチョコレートを目の前に置かれながら食べられなかったグループは平均して8分でパズルを諦めてしまいました。
クッキー・チョコレートを我慢することで、心の体力を削られてしまったのです。
では、どうすれば貴重な心の体力を削られないですむでしょうか。
注目すべきは、机の上に何も無ければ、空腹な中焼き立てのクッキーの香りが充満する部屋にいても心の体力は消耗しないということです。
人は目の前に誘惑があると抗うのに苦労しますが、目の前に無ければそれほど苦にならないということです。
これは別の実験でも確認されています。
ダイエット中の被験者にお菓子を我慢させる実験で、お菓子を手の届く場所に置かせると心の体力を奪われたのに対し、お菓子を手の届かない部屋の端に置くと、心の体力は奪われませんでした。
また、同じくオフィスで働いているダイエット中の会社員を対象にしたある実験では、チョコレートを机の上に置く場合と机の中にしまってある状態とでは、チョコレートの消費量が3倍違ったそうです。
子供でも、ゲームやマンガなどが見えない場所に片付けてあるか、使った後目に付く場所にそのまま放置されているかで、またやりたくなる気持ちがまるで変わってくるのです。
だから、また出すのが面倒で、かつ目に付かない場所に片付けることをルールにすることは、無駄な我慢で心の体力を消耗することを防止することに繋がります。
そうすると、温存した心の体力を勉強につぎ込むことができるようになるのです。
「使ったら片付けをしなさい」という昔ながらの注意は、実はとても理に適っているのですね。
中高生であれば、勉強するときにはスマートフォンを部屋に持ち込まないということをルール化するのも大切です。
また、ご家庭の協力も、時には大切になってきます。
これは実験の結果ではなく、我々の指導上の経験則ですが、年中家のテレビがついている家庭の子供の勉強時間は、そうでない家庭の子に比べて格段に少なくなります。
子供の勉強時間には、お父さんお母さんは読書をしたり家事や仕事をしたりしている。
そんなご家庭の子供は、よく勉強します。
我慢をさせるのではなく、そもそも遊びたくならない環境づくりをしておく方が良いのです。
ダイエット中の人が「食べたい」と「食べたくない」の間で葛藤しているように、子供たちもまた「遊びたい」と「遊びたくない」の間で葛藤しています。
解決するための方法は、遊んだことを叱ることではなく、「遊びたい」と思わないで済む方法を教えてあげることなのです。
甘いものを食べた後で後悔する様に、彼らも遊んだ後に後悔しているのですから。
4:決断を下す
人は様々な決断をする度に心の体力を消耗していきます。
そして、感情のコントロールができなくなり、欲求のコントロールもできなくなり、勉強や仕事に取り組むエネルギーを失っていきます。
このこともやはり下記の実験によって確認されました。
学生達に大学のカタログを見せ、受講する講座を選ばせます。
その学期の授業で、どのような映像資料を見るか、試験を何回行うかなどを、繰り返し選択させます。
そしてその後数学のテストを受けさせます。
被験者達には、このテストがその人の知性を測る重要な尺度となること、そして事前に15分間練習すれば、得点は伸びると思われることを告げます。
それから被験者を、練習のための教材の他に、誘惑の材料である雑誌と小さなテレビゲームの置いてある部屋で1人で待機させます。
そう、この被験者達が、待機している間にどのような行動をするかを観察するのがこの実験の目的です。
その結果、授業の内容を何度も決定させられた被験者達は、比較対照の何も決定しなかった被験者達に比べて、テストの準備を早々に諦めて雑誌を読んだりゲームをしたりして時間を過ごすという傾向が顕著に見られました。
決断にはエネルギーが必要だということがよくわかります。
では、この学生達のように、決断でエネルギーを失わないようにするためにはどうすれば良いでしょうか?
もちろん事前に計画を決めておくことです。
無計画な子供は、まず「今から勉強するぞ!」と決断し、「何から始めるか」を決断し、「次に何をやるか」を決断し・・・、というように、日々決断を繰り返しています。
そして、心の体力をどんどん浪費していきます。
結果、肝心の勉強そのものに使う分がみるみる減っていき、勉強に集中できなくなるのです。
そうならないように、あらかじめやるべきことを決めておくことが大切です。
伸学会では、目先の行動を決めておく「週間スケジュール」と、中期的な計画である「やることリスト」を使って、子供たちの学習計画を管理しています。
一人ひとりの個別指導や習い事、就寝時刻・起床時刻に合わせて1週間のスケジュールを作成します。
また、中期的な計画として、テストや入試に向けて各自が課題として取り組むべきことをリストアップさせ、ポストイットに書いて貼ります。
クリアしたら順次剥がしていきます。
大人でも仕事をする上でこのようなタスク管理をされている方が多いと思いますが、そうすると良い仕事ができるのは、エネルギーを仕事に集中して注げるからなのです。
子供だって同じこと。
計画的に行動すると、良い勉強ができるのです。
以上が「心の体力」を消耗する4つの場合と、無駄な消耗を抑えるためにするべきことでした。
伸学会のやり方を真似ても良いですし、もっと良い別のやり方を探してみても良いと思います。
人とはこういうものだということを知って、それにあわせた仕組みづくり・環境づくりをしていきましょう。
そうすると子供が勉強に集中できるようになっていきますよ。
それでは続きはまた来週、「『心の体力』の回復のさせ方」です。
疲れてしまったときに何をすれば回復して、また勉強や仕事に集中して取り組めるようになるのかについて書きます。
楽しみにしていて下さいね。
文責:伸学会代表 菊池洋匡
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