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伸学会代表の菊池です。
今月初旬に炎上していたサッカー日本代表のエース本田圭佑選手のこのツイート。
あなたはご覧になりましたか?
他人のせいにするな!政治のせいにするな!!生きてることに感謝し、両親に感謝しないといけない。今やってることが嫌ならやめればいいから。成功に囚われるな!成長に囚われろ!!https://t.co/EHbPYpUI8e @YahooNewsTopics
— KeisukeHonda(本田圭佑) (@kskgroup2017) 2017年5月30日
この本田圭佑選手のメッセージは、4つのパーツに分けることができます。
1.他人のせいにするな!政治のせいにするな!!
2.生きてることに感謝し、両親に感謝しないといけない。
3.今やってることが嫌ならやめればいいから。
4.成功に囚われるな!成長に囚われろ!!
成功者がこれを言ったら反感を買うでしょう(実際炎上してますし)。
しかし、あなたのお子様を成功者にするためには見るべき教育的価値があります。
そこで、ちょっと解説してみたいと思います。
●「4.成功に囚われるな!成長に囚われろ!!」について。
順番通りではないですが、まずはここから。
これ、少し前にコラムで取り上げた、「決定論と成長論」についての話です。
(cf.[性格診断]あなたの子は伸びる性格か?)
自分の能力は変えられないものだと考える「決定論者」と、自分の能力は高められると「成長論者」について、「成長論者」の方が実際に成長するという事実は上記のコラムに書いたとおりです。
そして、これに関連して、課題にチャレンジする目的をどのように考えるかという話があります。
「決定論者」の多くは、課題にチャレンジするのは自分の能力を「証明」するためととらえます。
それに対して、「成長論者」の多くは、課題にチャレンジするのは自分の能力を「高める」ためととらえます。
前者は、自分の能力を証明するために成功に囚われることになり、難しい課題にチャレンジしなくなります。
結果として成長しません。
一方で後者は、自分の能力を高めるために難しい課題に積極的にチャレンジします。
結果として成功しようと失敗しようと、確実に成長していきます。
これについても様々な実験から得られたエビデンスがありますので、回をあらためてコラムにしようと考えているところです。
●次に「1.他人のせいにするな!政治のせいにするな!!」について。
これは、成功失敗の原因をどう認識しているかという「原因帰属論」の話です。
例えば、以下の質問に自分ならどう答えるか考えてみてください。
「こんな状況を想像してください。ひとからやってほしいと頼まれた仕事がありますが、ぜんぶ終わりそうにありません。では次に、その主な原因をひとつ想像してください。どんな原因が頭に浮かびますか?」
セリグマンらが行った実験では、このような質問を繰り返します。
「やり抜く力」を持って、社会的に成功している人々の多くは「努力が足りなかったから」「やり方が悪かったから」といった「一時的」で「特定的」な回答をしますが、成功していない人の多くは「意気地なしだから」「自分は何をやってもダメだから」といった「永続的」で「不特定」な回答をしました。
このような、出来事の因果関係を特定することを原因帰属といい、それはその後のやる気と行動に影響することがわかっています。
原因帰属について、ワイナー(Winner、1980)による分類が教育心理学の分野で知られています。
彼は、原因が自分の中にあるのか、自分以外の要因にあるのかという内的―外的次元と、次も同じ結果が期待できるのか否かの安定―不安定の次元を組み合わせて、四つの原因帰属を提案しました。
・試験で100点を取ったのは、
→先生が作るテストが簡単だからだ(外的・安定)
→運が良かったからだ(外的・不安定)
→自分に才能があるからだ(内的・安定)
→頑張って勉強したからだ(内的・不安定)
・試験で不合格になったのは、
→テストが難しいからだ(外的・安定)
→運が悪かったからだ(外的・不安定)
→才能がないからだ(内的・安定)
→努力が足りなかったからだ(内的・不安定)
結果をどの原因に帰属させれば、この生徒の今後の学習につながると思いますか?
ワイナーは、内的で不安定な原因である「努力量」に着目させるのがよいと考えました。
内的で不安定とは、要するに「自分で変えられる」ということです。
実際に、コラム「[性格診断]あなたの子は伸びる性格か?」でも取り上げたように、ドウェック(Dweck、1975)の研究では、失敗でやる気をなくしやすい子供に対して、原因を能力不足でなく努力不足に帰属させるよう指導したところ成績が向上しました。
さらに、現在の教育心理学では、もう1つの内的で不安定な要素である「方法」に着目させるとなお良いと言われています。
また、「決定論と成長論」という視点も合わせて考えると、「成長論者」は「能力」も自分で変えられるもの、つまり内的で不安定な原因としてとらえているということですね。
そして、それは実際にその通りになります。
ここで本田選手のメッセージに戻ると、「他人のせいにするな!政治のせいにするな!!」これは成功・失敗の原因を外的で安定的なものに求めるのではなく、内的で不安定なものに求めなさいということですね。
そうすれば人は成長できるのです。
良いメッセージですね。
●続いて「2.生きてることに感謝し、両親に感謝しないといけない。」について。
ポジティブな思考はポジティブな結果を引き寄せます。
中でも感謝の気持ちは大きな力を持っています。
スポーツで、学業で、仕事で、勝負のときに力を発揮できるメンタルを作るには、感謝の気持ちを持つことが最も近道です。
何に感謝しても良いのですが、その中でも「生きてることに感謝」と「両親に感謝」は多くの人にとって最も簡単なものです。
だから例として挙げられているのだと思います。
ただ、世の中には両親との関係が良好でない人もいますよね。
そういう人は友人に感謝したって、飼っているペットに感謝したって良いのです。
そうすれば、その気持ちがあなたのエネルギーになりますよ。
●最後に「3.今やってることが嫌ならやめればいいから。」
心理学において、人の幸福に関わる最も基本的な欲求とは、他者との「関係性」、自己の「有能感」、そして「自律性」の3つとされています。
その中の「自律性」とは、「自分で選択できる」ことを言います。
人は自分で選んだことに対しては当事者意識を持ち、意欲や高い関心を示します。
そして、人生において自分で選択できることが多ければ多いほど、自分の人生に幸福感を感じます。
(当然「選択」だけが大事なわけではありません。念のため)
今やってることが嫌でもやめられないというのは、「自律性」を奪われている状態です。
それではどんなに社会的に成功しているように見えても、お金を稼いでいたとしても、本当の幸福感は得られないそうです。
まして、本田選手が引用したように、嫌なこと・状況から逃れる方法として自殺を選択してしまうのは不幸なことです。
やめれば良いんだよ。
自分で選べるんだよ。
その先に待っているのは失敗かも知れないけど、失敗=不幸ではないんだよ。
むしろそれを選択できることが、豊かさであり幸福なんだよ。
そういう優しいメッセージだと私は思います。
以上をまとめると、本田選手のツイートは、さすがサッカースクールのオーナーらしい、指導者として大変優れたメッセージです。
これだけの内容をツイッターの文字数制限の140字で表現しきったのは素晴らしいですね。
私も参考にしようと思います。
●最後の最後に
国語の指導者としての立場から本田選手のメッセージを採点してみようと思います。
日本語の文法構造は、大事なものは後に持ってくるのがルールになっています。
「若い世代の死因、自殺最多=15~39歳『深刻』」というニュースを受けてのツイートであれば、それに対してもっとも伝えたいのは「3」の「今やってることが嫌ならやめればいいから。」であろうと思われます。
また、「4」の「成功に囚われるな!成長に囚われろ!!」の部分も、成功になんか囚われなくて良い(=失敗したって良い)というのが伝えたいことであろうと思われます。
それを伝えるためには順序が誤っており、「書き方」としては点数は低くせざるを得ません。
結果誤解を招き炎上することとなっています。
そこで、国語的な模範解答を。
他人のせいにするな!政治のせいにするな!!
→周囲の環境に着目するより、自分にできることに着目しよう。
成功に囚われるな!成長に囚われろ!!
→成長を意識すれば成長できる。失敗を怖がる必要なんて無いんだ。
生きてることに感謝し、両親に感謝しないといけない。
→生きてることに感謝し、両親に感謝をすれば、それが君の力になるよ。
今やってることが嫌ならやめればいいから。
→それでも今やってることが嫌ならやめたって大丈夫だから。
これらをつなげて、
周囲の環境に着目するより、自分にできることに着目しよう。
成長を意識すれば成長できる。失敗を怖がる必要なんて無いんだ。
生きてることに感謝し、両親に感謝をすれば、それが君の力になるよ。
それでも今やってることが嫌ならやめたって大丈夫だから。
以上!
国語的には満点な、誰の心にも響かない当たり障りの無い文章ができあがりました。
メッセージとしては0点ですね。。。
文責:伸学会代表 菊池洋匡
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参考文献
Claudia M. Mueller and Carol S. Dweck “Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance” J Pers Soc Psychol. 1998
ハイディ・グラント・ハルバーソン『やってのける――意志力を使わずに自分を動かす』大和書房、2013年
アンダース・エリクソン,ロバート・プール 『超一流になるのは才能か努力か?』文藝春秋、 2016年
藤田哲也編著『絶対役立つ教育心理学』ミネルヴァ書房、2007年
アンジェラ・ダックワース『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」
を身につける』ダイヤモンド社、2016年