「やりたい」のに「動けない」。そんな矛盾を解く心理学(実は私もそうでした)

こんばんは。伸学会の菊池です。

伸学会は本日で春期講習最終日となりました。
新学年最初の講習は、多くの子にとってハードなものだったのではないでしょうか。

お子さんも、親御さんも、本当にお疲れ様でした。

さて、毎年この時期になると、
多くの親御さんから切実なご相談をいただきます。

「朝、学校に行こうとすると急にお腹が痛いと言い出すんです。」
「塾の時間になってもカバンを持たずに、部屋に閉じこもってしまって……。」
「机には向かっているんです。でも、1時間経っても1ページも進んでいないんです。」

こうした様子は、突然始まったわけではないことがほとんどです。

2月の新年度スタートから、少しずつ、少しずつ積み重なってきた疲れが、春期講習という激流を経て、じわじわと表に出てきている。

そういうケースが非常に多いです。

そんなお子さんの姿を毎日見ていると、親御さんの心も少しずつ削られていきますよね。

「こんなに苦しそうなら、いっそ中学受験をやめた方が本人のためなんじゃないか。」
「そこまで無理をして、高い志望校を目指す意味が本当にあるんだろうか。」

そう思って、意を決してお子さんに切り出してみるわけです。

「そんなに辛いなら、受験やめてもいいんだよ?」
「志望校を少し下げて、もっと自分らしくいられる学校を探してみない?」

ところが、お子さんから返ってくるのは、まったく予想外の答えです。

食い気味に、あるいは涙をこぼしながら、
「やめない!絶対にやりたい!」
「志望校は絶対に変えない!」
と、強い言葉が返ってくる。

親御さんにしてみれば、頭の中が「?」でいっぱいになりますよね。

「やる気があるなら、なぜ動かないの?」
「言ってることとやってることが矛盾しているでしょ!」

そう言いたくなるけれど、言ったところで状況は変わらない。

やめると言うなら、自分も気持ちを切り替えてサポートできる。
志望校を下げると言うなら、それに合わせた対策を考えられる。

でも「やめたくない、下げたくない、でも動けない」という状態には、どこにも手がかりがない。
出口の見えない迷路に迷い込んだような気持ちになりますよね。

実はこの「矛盾」、お子さんのわがままではありません。
サボりでも、反抗でもないんです。

心理学的な視点から見ると、これは心が限界まで頑張った末に、自分自身を守ろうとしているサインです。

どういうことなのか、順番に説明していきますね。

最後まで読んでいただければ、きっと今日お子さんにどんな声をかければいいのかがお分かりいただけると思います。

【なぜ「動けない」のか。4つの原因】

お子さんが今この状態になっているのには、理由があります。
しかも、その理由は一つではなく、複数が重なり合っていることがほとんどです。

代表的な原因を4つ挙げますので、読みながら「うちの子に当てはまるものはあるかな」と考えながら読んでみてください。

①セルフ・ハンディキャッピング(自尊心を守るための「言い訳作り」)
少し聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは心理学でよく知られた現象です。

簡単に言うと、
「本気で頑張って、それでも失敗したら、自分には能力がないということになってしまう。それが怖いから、あえて本気を出さないでいる。」
という状態のことです。

「やってないからできないだけ。本気を出せばいつでもできる。」
という逃げ道を、無意識のうちに自分のために作っている。

志望校を絶対に下げたくないというのも、このメカニズムで説明できます。

高い志望校を目指している自分、というのが今のお子さんのアイデンティティになっています。
それを手放すことは、「今の自分を丸ごと否定すること」に直結してしまう。
だから、たとえ勉強していなくても、志望校だけは絶対に下げたくない。

「いつか本気を出したときのために、高い目標だけはキープしておきたい」という心理が働いているのです。

これはわがままではありません。自分の心を守ろうとする、人間として自然な反応です。

②学習性無力感(心のブレーカーが落ちている)
直近の春期講習中だけでも振り返ってみて下さい。
お子さんはどんな経験をしていたでしょうか。

「やってもやっても、宿題が終わらない。」
「頑張って解いても、テストでは点が取れない。」
「周りはできているのに、自分だけついていけない。」

もしそんな状態だったとしたら、心理学で「学習性無力感」と呼ばれる現象が起こっているかもしれません。

うまくいかない経験が積み重なると、人間の脳はこの反応を起こします。

「どうせ何をやっても無駄だ。」
という学習をしてしまうのです。

うまくいっていない状況だと、本来であれば「もっと頑張ろう」という方向にエネルギーが向くはずです。
それなのに「どうせ無駄だから、最初から何もしない方がいい」という方向に向いてしまう。

これは意志の問題でも、根性の問題でもありません。
脳がダメージを避けるためにシャットダウンしてしまっている状態です。
心のブレーカーが落ちているのです。

③ワーキングメモリのオーバーフロー(脳の処理能力が限界を超えている)
これは、多くの親御さんが見落としがちな原因です。

脳には、情報を一時的に処理する「ワーキングメモリ」という機能があるのですが、この容量には限りがあります。

新しいことを覚えたり、慣れない環境に適応しようとしたりするときに、このワーキングメモリは大量に消費されます。
つまり、勉強以外のことで脳が消耗していると、塾の勉強に回せる「余力」が物理的に足りなくなってしまうのです。

これは1年中いつでも起こり得ることです。
たとえば、2月に塾で新学年がスタートしたとき。
新しいクラス、新しいテキスト、新しいペースに慣れようとするだけで、脳はかなりの容量を使い果たします。

あるいは、2学期の学校行事が重なる時期に突然動けなくなる子もいます。

そんな中で、1年で特に起こりやすいのが、実は今のこの時期です。

4月は、学校生活が一気に激変します。
クラス替えで、仲の良かった友達と離れるかもしれない。
新しいクラスで、どの子と仲良くなればいいかわからない。
担任の先生が変わって、どんな先生か様子を見なければならない。
委員会や係が決まって、新しい役割にも慣れなければならない。

子どもにとって、これらは全部「新しい情報」です。
学校生活の変化だけで、脳のワーキングメモリはかなりの部分を使い果たしてしまっている。

残った容量で塾の勉強をしようとしても、処理できる情報量が足りない。

これは本人の努力や根性でどうにかなる話ではなく、脳の機能として「余力がない」という状態なのです。

大人が思う以上に、環境の変化は子どもの脳を消耗させます。

④心理的距離の乖離(ゴールが遠すぎて、やる気が出ない)
人間の脳には、「報酬がすぐに得られるとわかっているとき」にやる気物質であるドーパミンが多く分泌される、という性質があります。

逆に言うと、「頑張っても報酬が得られるのがずっと先」だと、ドーパミンが出にくくなります。

中学受験の「合格」というゴールは、受験学年になる6年生の子でもまだ1年も先、4年生の子だったら3年も後の話です。

今この瞬間、目の前の計算ドリルを1ページ解くことと、数年後の合格が、脳の中でうまく繋がるはずありません。

「なんのためにこれをやっているんだろう」という感覚が出てくるのは、脳の仕組み上当然のことなのです。


「うちの子はどれだろう?」と思いながら読んでいただけましたか?

おそらく、一つだけではなく、複数が重なっているお子さんが多いと思います。

今現在まだ塾や学校への行き渋りや、勉強が手につかないという症状になって表れていなくても、当てはまるものがあれば今後症状が現れるかもしれないので注意が必要です。

そして大切なのは、どの原因であっても、
「喝を入れれば解決する」「正論でぶつかれば動き出す」
という話ではない、ということです。

むしろ、正論で詰め寄れば詰め寄るほど、防衛本能がさらに強く働いて、余計に動けなくなってしまいます。

泥沼にはまっている人に「早く走れ!」と言っても、タイヤが空転して余計に深く沈むだけです。

それと同じです。

少し私自身の話をさせてください。

実は私、中高時代は①のセルフ・ハンディキャッピングの塊でした。

小学生の頃からずっと、「勉強ができる」というのが私のアイデンティティでした。

塾でも成績が良くて、周りからも「勉強できるキャラ」として見られていた。

それが自分の自信の源でした。

ところが、受験をして開成中学に入ったとたん、成績が振るわなくなってしまいました。

でも、当時の私にはできない事実を素直に受け入れることができなかった。

「勉強ができない自分」を認めてしまったら、今まで「勉強ができるキャラ」として積み上げてきた自分のアイデンティティが全部崩れてしまうように、無意識に感じていたんでしょうね。

「自分は本当はできる。ただ、今は本気を出していないだけだ。本気を出せば、いつでも巻き返せる。」
そんな風に考えて自分をごまかしていました。

そしてその言い訳を守るために、ますます勉強しなくなっていった。
本気を出したときのために、「本気を出していない今の自分」を温存するかのように。

今思えば、なんとも滑稽な話です。

でも当時の私は、本当に必死でそうやって自分の心を守っていたのだと思います。

そんな私がようやく動き出せたのは、高3になり大学受験が近づいてきた時期でした。

クラスメイトの友人たちが、声をかけてくれたんです。

「一緒に大学受験に向けて勉強しようぜ。やらないともったいないよ」

たった、それだけの言葉でした。

でも、その一言で私は重かった腰を上げることができました。

横に並んで「一緒にやろう」と言ってくれる仲間がいただけで、勉強と向き合う勇気が出たんですよね。
そして、一緒に頑張る仲間がいるということが、純粋に「やってみよう」という気持ちを引き出してくれました。
当時の友人たちには、今でも本当に心から感謝しています。

その経験があるから、私は塾の先生として、ずっとこう思っています。
塾に来られない子、宿題をできない子、志望校は下げたくないのに机に向かえない子。

そういう子たちに対して、
「なんでやらないんだ」と責めるのではなく、
「一緒にやろうよ」と横に並んで手を差し伸べられる存在でいたい、と。

伸学会をそういう場所にしていきたい、と。

そして、親御さんにも同じように、お子さんに寄り添ってあげてほしいなと思っています。

そう言われても、どうしたら良いかわからないという方も多いですよね。
原因ごとに、具体的にお伝えしますので、やってみて下さい。

①セルフ・ハンディキャッピングのお子さんへの対処法
このタイプのお子さんに「もっと頑張れ」「本気でやれ」と言うのは逆効果です。

本気を出すことへの恐怖が、さらに強まるだけです。

まず大切なのは、「失敗しても安全な場所」を作ってあげることです。

「結果がどうであっても、あなたの価値は変わらない。」
「うまくいかなくてもいい。やってみることが大事。」
そういうメッセージを、繰り返し伝えてあげてください。

一度言っただけでは伝わりません。
でも、何度も聞くうちに、お子さんの心に少しずつ染み込んでいきます。

そして、結果ではなく「過程」を褒めることを意識してみてください。

「今日10分だけ、問題と向き合ったね。」
「わからなくても、最後まで考えようとしたね。」

そうやって、「やってみること自体に価値がある」という感覚を育てていくことが大切です。

もう一つ、ぜひ試してほしいことがあります。

「セルフ・ハンディキャッピングって知ってる?」と、お子さんにこの言葉を教えてあげてください。
伸学会でも、ホームルームの時間に子どもたちにこうした心理の仕組みを伝えています。「自分がなぜ動けないのか」を理解した子は、自分で立て直す力が育っていくからです。

「本気を出して失敗するのが怖くて、あえて頑張らないことで言い訳を作ってしまう心理のことだよ。実は菊池先生も、中学生の頃にそういう気持ちになったことがあるんだよ。」
そんな風に伝えると、責められている・叱られていると感じずに、先生もそうだったんだと受け止めてくれやすいです。

これを読んでいるあなたにもし同じような経験があったら、その話をしてあげられると良いですね。

こうしたことを教えてあげると、お子さんは「あ、自分の状態に名前があるんだ」と気づくことができます。
自分の状態を客観的に見る力、つまり「自己認識」こそが、自分で抜け出すための第一歩になります。

②学習性無力感のお子さんへ
心のブレーカーが落ちているときに必要なのは、「できた!」という感覚を取り戻すことです。
ただし、いきなり難しいことをやらせてもまた「どうせ無駄だ」という気持ちになってしまいます。
ポイントは、ハードルを極限まで下げることです。

「今日はこの問題、1問だけやってみよう。」
「この計算、5分だけやってみよう。」

今のお子さんにとって、確実にできるレベルからスタートして、「できた」という小さな成功体験を一つひとつ積み重ねていく。
地味に見えますが、これが一番確実なアプローチです。

そしてここでも、お子さん自身に仕組みを教えてあげてください。
「何度やってもうまくいかないことが続くと、脳が『どうせ無駄だ』って学習してしまうんだよ。でもそれは、あなたの能力がないんじゃなくて、脳が自分を守ろうとしているだけ。小さなことから少しずつ『できた』を積み重ねていけば、必ず動けるようになるよ。」
と。

「自分がサボっているんじゃなくて、脳のブレーカーが落ちているだけなんだ」とわかるだけで、お子さんの自己否定感はぐっと和らぎます。
伸学会のホームルームでも、こうした脳の仕組みを子どもたちに伝えています。
自分の状態を「自分がダメだから」ではなく「仕組みとして理解する」ことで、冷静に対処できるようになっていくのです。

③ワーキングメモリがオーバーフローしているお子さんへ
このタイプのお子さんに必要なのは、何よりも「休息」です。
「新学年になって落ち着くまでの数週間は、塾の勉強のクオリティよりも、睡眠と生活リズムを最優先にする。」
これは甘やかしではなく、脳のパフォーマンスを回復させるための合理的な判断です。

睡眠が十分に取れていない状態では、どんなに勉強しても脳への定着率は大幅に落ちてしまいます。
「今は少し休ませてあげよう」と親御さんが意識的に決断することがとても大切です。

お子さんへの伝え方としては、こんなふうに話してみてください。

「脳にはメモリがあって、新しいことを覚えようとするだけでたくさん使ってしまうんだよ。新しいクラスや新しい先生に慣れようとするだけで、もうメモリがいっぱいになってしまっている。だから今は勉強に集中できなくて当たり前。しっかり寝て、脳を回復させることが今一番大事な勉強だよ。」

「頑張れていないんじゃなくて、メモリが足りないだけなんだ」とわかると、お子さんは必要以上に自分を責めなくなります。
そして、「休むこと」を罪悪感なく選べるようになります。

④心理的距離が乖離しているお子さんへ
「第一志望合格」という大きなゴールは、一旦横に置いてあげてください。
代わりに、「今日1日の小さな目標」をお子さんと一緒に決めましょう。
しかも、できれば本人に決めさせることが大切です。

「今日は何をやろうか?」
「どこまでだったらできそう?」

自分で決めた目標には、他人から与えられた目標よりもずっと強くコミットできます。

そして、その小さな目標を達成したときには、しっかり一緒に喜んであげてください。

小さなゴールに、小さな喜びを積み重ねていく。

それが今の時期、ドーパミンを補充してやる気を取り戻す一番の方法です。

ここでもお子さんに、脳の仕組みを教えてあげてください。

「人間の脳は、ご褒美がすぐもらえるとわかるとやる気が出るようにできているんだよ。合格って、まだずっと先の話だから、脳がやる気を出しにくくなっているだけ。だから、今日だけの小さな目標を作って、それをクリアする喜びを積み重ねていこう。」
こんな感じで伝えると良いと思います。

「やる気がないんじゃなくて、脳がご褒美を感じにくくなっているだけ」とわかると、お子さんは自分を責めるのをやめて、「じゃあどうすればいいか」を考えられるようになっていきます。

伸学会のホームルームでも、こうしたやる気の仕組みを子どもたちに伝えています。
自分の脳の性質を知っている子は、落ち込んだときに自分で立て直す術を持てるようになっていきます。

【お子さんが動けなくなっていたら、ピットインのサインです】
F1レースで、ピットインせずにずっと走り続けるチームはありません。

タイヤが磨り減り、燃料が切れても走り続けようとしたら、レースを完走することはできません。

だから、あえてスピードを落としてピットに入り、タイヤを換えて、燃料を補給する。

それは「負け」ではなく、完走するために必要な「戦略」です。

お子さんが今、動けなくなっているとしたら、それはピットインが必要なサインです。

時期は関係ありません。

2月からずっと積み重なってきた疲れが今出てきている子もいれば、もっと前から限界だった子もいます。

大切なのは「いつから」ではなく、「今、お子さんの心のガソリンが切れかかっていないか」に気づいてあげることです。

今の時期に無理やりアクセルを踏ませようとすると、エンジンが壊れてしまいます。

一度ピットに入って、心のガソリンを補給してあげること。

「戦略的に立ち止まること」は、甘やかしでも諦めでもありません。

長い受験レースを最後まで走り抜くための、大切な一手です。

親御さんが今できる一番のことは、正論でアクセルを踏ませることではなく、

「一緒にやろうよ」と横に並んでくれる存在になることだと、私は思っています。

かつての私が友人の一言に救われたように、あなたのお子さんにとって、親御さんのその一言が大きな力になるはずです。

焦らずに、まずはお子さんの隣に座ってあげることから始めてみてくださいね。

それでは。



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