中学受験における教育虐待に関して興味深い研究が出ていました

こんばんは。伸学会の菊池です。

日本女子大学大学院の研究者浅見里咲さんの、中学受験期に起きるエデュケーショナル・マルトリートメントをテーマにした研究がとても興味深かったので、今回はそちらをご紹介しようと思います。


「エデュケーショナル・マルトリートメント(Educational Maltreatment:EM)」という言葉は、臨床心理士・武田信子先生が提唱したものです。
これは、教育の名のもとに子どもの人権を大きく傷つける行為を指します。
いわゆる「教育虐待」です。
たとえば、暴言や過度の叱責、子どもの自主性を奪うような管理がこれにあたります。

中学受験への挑戦は、お子さんの可能性を広げる素晴らしい機会です。
しかしその一方で、受験勉強の過程で子どもが強いプレッシャーにさらされ、傷ついてしまうケースも少なくありません。

中学受験、わが子のために。
その情熱が、知らず知らずのうちに「教育という名の虐待」に至ってしまうのです。
そうならないために、私たち大人は慎重にならなければいけません。


浅見さんの研究によると、中学受験における保護者の関わり方は、大きく2つのタイプに分けられることが示されています 。

1つは「直接介入型」です。
成績を上げるために、直接的な指示や命令、ときに厳しい管理や暴力的・心理的な圧力で子どもを動かす関わり方です。
このタイプの父親は身体的な暴力、母親は心理的な暴力につながる傾向が見られたと報告されています 。
特に男子は父親からの「スパルタ的」な関わりを受けやすいことも分かっています。

もう1つは「間接介入型」です。
こちらは学習環境を整えたり、応援や協力をしたりすることで、間接的にお子さんを動機づけようとする関わり方です。
特に母親が「間接介入型」で関わった場合、子どもが中学受験を振り返って「やってよかった」と感じやすい傾向がありました。
ただし、このタイプも行き過ぎれば、「真綿で首を絞めるような」「じわじわと子どもの自己決定・意見表明の機会を奪うような」「一見そうであるとはわからないような」教育虐待的物言い・態度に繋がる可能性があると指摘されているので、注意は必要です 。


多くの親御さんは、「まさか、うちが」と思われるかもしれません。

しかし、家庭内での教育虐待は決して他人事ではありません。

この調査では、都内在住の30代までの成人556人に対してアンケートが行われています。

そのうちの中学受験経験があった133件の回答を分析した結果、中学受験期に家庭内で身体的・心理的暴力を受けた経験を持つ人が決して少なくないことも明らかになりました 。

身体的暴力を父親から受けた経験がある人は13.6%、母親からは12.8%でした。
心理的暴力を父親から受けた経験がある人は10.5%、母親からは14.3%でした。

1クラスが20人程度の塾であれば、そのうちの2~3人は、家庭内で教育虐待を受けているという計算になります。

想像よりも多くないですか?

親の側が虐待だと思っていなくても、本人の側は10年以上たっても心の傷が残っており、虐待を受けていたと認識していたのではないでしょうか。

実際に、伸学会の中に教育虐待を受けていた経験があるスタッフがいますが、いまだに心に傷を抱え、親との関係性に苦しんでいます。

以前YouTubeでその体験談と今も抱える苦悩を語ってくれました。
https://youtu.be/PTXXKbgMZXA

こうしたことが、中学受験という特殊な環境下で、どの家庭にも起こりうる問題であることを研究は示しています。

そして、注意しなければいけない点として、中学受験を経験して満足している人ほど、教育虐待を容認する志向が高くなる傾向が示されました。

これは、自身の成功体験から厳しい指導を肯定的に捉えやすくなる可能性を示唆しています。

親御さん自身が受験において成功体験をしていると、教育虐待に走る危険が高まるということは知っておかなければいけないことではないかと思います。

私自身も中学受験をしていて、して良かったと思っている分だけ、指導者としても、そしていつか親になった場合にも、注意が必要だと感じました。


実はこの研究で最も注目すべき点の一つは、お子さんの中学受験に対する満足度や考え方には、保護者の関わり以上に、学習塾の関わりの方が強く影響するという分析結果です 。

教育虐待は多くの場合「親の問題」として片づけられ、社会的に議論されにくいのが現状です。

しかし実際には、家庭だけでなく、塾の指導方針も子どもに大きな影響を与えていました。

しかも、子どもに対しての影響度は、家庭の関わり方以上に塾の指導方針の方が大きなものでした。


研究では、親のタイプと同様に、塾の関わり方のタイプも2つに分類しています。

1つは「面倒見の良い塾」。
こちらは生徒の学習環境を整えることを重視し、温かく応援することで成績を押し上げるタイプの塾です。

もう1つは「鍛えてくれる塾」。
厳しい言葉やプレッシャーを与え、成績を伸ばそうとする塾です。

どちらのタイプの塾でも、最終的な合否の結果に大きな差は見られなかったとのことです。

しかし、合否以外の面では、これらの塾のタイプの違いが子どもに影響を与えていました。

その影響には男女差が見られました。

女子の場合、「面倒見の良い塾」に通うと中学受験経験への満足度が上がり、「鍛えてくれる塾」では満足度が下がる傾向がありました。

母親が「間接介入型」で関わった場合に満足度が上がるという分析結果と同じような傾向が、塾との関わりにおいても見られるということですね。

一方で、男子の場合、「鍛えてくれる塾」での関わりを通して、厳しい指導などを容認する「教育虐待容認志向」が高くなる傾向が見られました。

前述のように、自分が親になったときに、教育虐待をする親になるリスクが高まるということなのかもしれません。

この研究結果を受けて、私も指導者として、伸学会の代表として、中学受験は良い経験だったと生徒たちに感じてもらうために、そして成長してから教育虐待を容認する親にならないように、伸学会は「面倒見の良い塾」という軸がブレないようにしていかなければいけないと感じました。


今どきは多くの親御さんがうすうす気づいてらっしゃるとは思うのですが、この研究でもあらためて、合否結果は中学受験に対しての満足度に対して影響はなかったことが示されています。

研究者はアンケート回答者の合格校を志望順位毎に得点化・尺度化したうえで、t検定や相関分析を行っています。

その結果、いずれも有意な関係性は得ることができず、「現時点では合否結果が満足度に対し直接的な影響を持つことは考え難かった」とまとめています。

つまり、中学受験は「合格したから良かった」というような単純なものではありません。

結果を含めたそれまでの過程全体と、おそらく進学後の体験も含めて、総合的に判断されるものなのです。

ですから、塾としても「合格実績さえ出ればそれで良し」というスタンスであってはいけないと私は思っています。

仮に第一志望校に合格したとしても、そのときに生徒たちが抱く感情が、「ようやく勉強から解放される」とか、「これで先生に怒られなくなる」とかだったとしたら、それは良い中学受験体験をさせられたとは胸を張れないと思うんですね。

教育経済学者の中室牧子教授は、「変化の速い今の時代、勉強は一生続けていかなければいけない。そんな時代にあって、子どもを勉強嫌いにしてしまったら、それは一生にわたる重いハンデを負わせることになってしまう」とおっしゃっていました。

それには私も同感で、「第一志望校の合格」と、「勉強が好きになること」と、どちらの方が子どもの将来のためになるかと言ったら、私は圧倒的に後者だと思っています。

実際、私は中学受験の時に第一志望に合格できましたが、好きだったはずの勉強が嫌いになってしまって、その後の中高は勉強に関して言えば暗黒時代でした。

それに対して、教え子たちに目を向けると、第一志望に不合格になった子たちも、勉強が好きになり中高もコツコツやり続けた子たちは、大学受験の時までにすごく伸びているんですよね。

だからこそ、第一志望に合格させるために、子どもの勉強が好きだという気持ちを潰してしまったら、それは本末転倒だと思うんです。

「受験勉強楽しかった。終わっちゃうのがさみしい」

卒業の際にそう言わせることが私の、そして伸学会の最大の目標です。

それはきっと、ご家庭でも同じではないでしょうか。


なお、誤解を受けないようにお伝えしておくと、第一志望合格や、成績アップを目指すのが悪いことだというわけではありません。

むしろ、とても大切なことです。

目標があるからこそ、目標を達成するためにどうしたら良いか作戦や計画を考える力がつきます。

また、それらを実行する力も育ちます。

大事なことは、私たち大人が合格や成績アップを目指すことを押し付けるのではなく、本人がやりたいという気持ちを育てるということです。

結局大人でも、成果を出す人って人並み外れて仕事をしていますし、子どもでも、成果を出す子は人並み外れて勉強をしています。

人並外れてやることは、成功するためにはマストです。

その人並み外れてやることを私たち大人が強要すれば、それは正に教育虐待になります。

一方で、本人がやりたいと思っていたら、それは趣味の「やりこみ」と同じです。

私は授業も担当しながら会社の経営もして記事も書いてYouTubeもやってと、たぶん普通の人の倍くらい働いてると思いますが、ただの趣味の「やりこみ」なので、楽しくて仕方ないです。

そして、成果が出てYouTubeの銀の盾をもらったりして、ますます楽しくなっています。

生徒たちにも、そういうやりこみの楽しさを伝えていきたいと思っています。

そうすれば、生徒たちも自然と結果が出るようになっていきますので。

まずは、楽しさに気付けるように、優しく丁寧に「面倒を見る」こと。

その先に、とことんやりこむ未来につなげて、グッと成長するようにしていきたいと思っています。

この順序がとても大事だと思っていますので、あなたのご家庭でも参考にしてみてください。

それでは。



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