脳が疲れたとウソをつく【加筆修正しました】

中学受験に向けた天王山。

夏期講習はよくそう表現されます。

もっとも、中学受験だけでなく高校受験・大学受験においても同じように言われるわけですが。

伸学会でも、子供たちは朝から晩までよく勉強しています。

そして、そろそろ疲れが見え始めています。そのせいで勉強のペースが落ちかけています。

そこで先日ホームルームの授業で彼らに問いかけました。

「ちょっと待って!この『疲れ』っていったいなんなんだろう?」

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「疲れ」について考えるための材料として、以下のようなものがあります。

1922年にノーベル生理学・医学賞を受賞したアーチボルド・ヒルという心理学者がいます。

彼は、運動による疲労感は、実際の筋肉疲労によって起こるのではなく、脳が極度の疲労を防ごうとして起こすのではないかと考えました。

これを受けて、ケープタウン大学のスポーツ科学の教授、ティモシー・ノークスが競技中のアスリートの身体で実際に何が起きるのかを検証しました。

その結果、筋肉には不具合は全くなかったのに、脳は筋肉に「疲れたから止まるように」と指示を出しているとわかりました。

そして、そのために強烈な「疲労」を生み出していたのです。

つまり、「疲れた」というのは、筋肉が消耗しきったという事実を伝えるサインではなく、疲れたような気がするという感情なのです。

実際の消耗しきったという状態は、疲労感のもっともっと先にあったのです。
(参照:Timothy D. Noakes, Juha E. Peltonen, Heikki K. Rusko “Evidence that a central governor regulates exercise performance during acute hypoxia and hyperoxia” Journal of Experimental Biology 2001 204: 3225-3234;)

 

このことは、私達の脳の進化の歴史から考えれば納得できます。

私たちの脳は、約20万年前にホモ・サピエンスが誕生してから、ほぼ構造が変わっていないと言われています。

その時代を想像してみて下さい。

もしあなたが、獲物を追ってもう動けなくなるまで疲労してしまったら。

そのタイミングで危険な肉食動物に出会い自分が獲物の側になったとき、死が確定します。

それを避けるために、脳は早め早めにブレーキをかけて、常に最後の力は残しておこうとするのです。

 

では、次に筋力ではなく意志力について考えてみましょう。

あなたを、あなたのお子様を、仕事や勉強に向かわせる心の力です。

コラム「人生を成功に導く『心の体力』」シリーズでも書いたように、意志力は筋肉に似ています。

使えば徐々に疲労していき、休めば回復します。

また、筋肉と同じように鍛えて強くすることができます。

 

そして、疲れに関しての感覚も、筋肉と同じようなものだとわかっています。

つまり、限界だと感じていても、実際にはまだ余力があるのです。

エネルギーの節約を心がけようとする脳が、エネルギー資源が減ってきているのを感じて、消費量の多い前頭前皮質の活動(自己コントロール)にブレーキをかけているだけなのです。

だから気力をふりしぼれば実はまだ頑張れます。

ニューヨーク州立大学オールバニー校の心理学者、マーク・ムラヴァンらがそのことを実証しました。

彼はモチベーションの実験を数多く行っています。

その実験の1つに、こんなものがあります。

彼らは被験者の学生たちに、とても面白いスタンダップ・コメディの動画を視聴させました。

被験者の半分には、動画を見ても笑ってはいけないと伝えました。

声を出して笑うのはもちろん、笑みを浮かべてもいけません。

そう、毎年年末にダウン・タウンがやらされている、「笑ってはいけない」をやらされたのです。

これには多くの意志力を消耗します。

その後、被験者たちにお酢の入ったオレンジジュースを飲ませます。

罰ゲーム用の青汁やセンブリ茶と同じで、まずいですが無理をすれば飲めなくはないものです。

その際に、被験者達にまずいジュースを一定量飲むごとに報酬を与えます。

片方のグループには約30mL飲むごとに1セント、もう一方のグループには25セントと金額に差をつけました。

低い報酬額(1セント)を提示されたグループでは、動画で笑いを我慢させられた被験者は、笑うことを許された被験者の半分しかまずいジュースを飲みませんでした。

一方、高い報酬額(25セント)を提示されたグループでは、笑いを我慢させられた被験者も、笑うことを許された被験者も、同じ量を飲んだのです。
(参照:Mark Muraven, Elisaveta Slessareva “Mechanisms of Self-Control Failure: Motivation and Limited Resources” Personality and Social Psychology Bulletin 2003 Jul;29(7):894-906)

まずいジュースを我慢する力(意志力)が表面的には消耗していても、本当に消耗しきるまでにはまだまだ余力があるのです。

 

この記事を最初に書いた当時は、ちょうどオリンピックが開催されていました。

鍛え抜かれたアスリートたちは、脳の「限界だ」というブレーキを振り切り、身体的な真の限界まで力を振り絞ります。

少しでも良い成果を!そしてメダルを!と望む「意欲」が、疲労感を超えさせるのです。

 

勉強に関しても同じように、脳の偽りの疲労感、限界のサインを振り切って勉強するためには何が必要でしょうか?

まずいジュースを飲まされた学生たちのように、勉強に対しておこづかいのような報酬を与えるというのも1つの選択肢です。


(学習意欲の6分類)

「みんなも頑張っているから」という関係志向を意欲の源にするのも良いでしょう。

「成績が上がるのが嬉しい」という訓練志向も良いですね。

どのような方法にせよ、自然に子供が意欲の源に気付くのを待つよりも、積極的な働きかけをしてあげる方が本人の意欲を早く・強く引き出せます。

例えば、訓練志向を持たせたいと思っても、子供は目先のことしか見えていないものですから、1つ1つの自分ができるようになったことはもちろん、数字で表れている成績の上昇すら気付いていないことは多いのです。

だから見える化してあげなければいけませんね。

いろいろなアプローチで、うまくそれぞれの意欲を引き出してあげましょう。

 

文責:伸学会代表 菊池洋匡

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