子供と部首トランプで遊ぶべき科学的理由

あなたは子どもの頃、
漢字の練習で何度も書き取りをさせられたことはありませんか?
 

この「何度も書く」という行為は、
やらされた人にはかわいそうですが、
典型的なダメ勉強法の1つです。
 

ちなみに私もやらされた被害者の1人です。
 

どんなときでも絶対にダメという勉強法ではなく、
効果がある場合と効果がない場合があるのですが、
効果がないのにやらせてしまっていることが多いのですね。
 

そこで、この記事では
長期記憶の仕組みについて少し細かく解説しつつ、
それと絡めて「何度も書く」勉強法はどんな場合にやらせると良いのかについて知っていただこうと思います。
  
 

この記事を読めば、
なぜ子供が小さいうちから部首トランプで遊んでおくと、
何度も書かなくても漢字を覚えられるようになるのかもわかりますよ。

 
  
  

目次

意味記憶とエピソード記憶と手続き記憶

長期記憶はまず、
「宣言記憶」と「手続き記憶」という種類に分けられます。
 

宣言記憶とは、
記憶された情報が言葉で表現可能なものです。
 

宣言記憶は、
覚え方・利用のされ方によって、
さらに「意味記憶」と「エピソード記憶」に分けられます。
 

「意味記憶」とは一般的知識に関する情報であり、
例えば「ものが燃えるには①酸素と②燃えるものと③発火点以上の温度が必要」
といったものです。
 

「エピソード記憶」とは個人的な思い出に関する記憶であり、
「昨日の授業でものが燃える3条件を習った」というような
「いつ」「どこで」が含まれる記憶です。
 
 

新しい知識は、
まずはエピソード記憶として覚えることになります。
 

その情報を様々な場面で利用したり、
何度も繰り返し学習したりすることで、
一般的な知識としての意味記憶となっていきます。
 

ですから、知識を定着させるためには、
まずはエピソードとして覚えやすいように工夫することが必要になります。
 
 

言葉で表現できる宣言記憶に対して、
言葉で表現できないものは手続き記憶と呼ばれます。
 

これは例えば運動技能や段取りに関する記憶です。
 

わかりやすい例で言えば、
「泳ぎ方」や「自転車の乗り方」です。
 

手続き記憶は、実際に身体を動かしたりする行動レベルのものと、
表面的には体を動かしていないけれど、
ある特定の処理を繰り返すことで習得される認知レベルのものとがあります。
 

行動レベルのものは、
先ほどの「泳ぎ方」「自転車の乗り方」に加えて、
私たち塾講師や学校教師の「授業の進め方」や、
普段ご家庭でされているであろう「料理の進め方」などが含まれます。
 

認知レベルになると、
「LとRの発音の聞き分け」や「九九」「文章題の解き方」「長文の要約の仕方」などがあります。
 

これら手続き記憶の最大の特徴は、
本人の反復練習によってのみ習得が可能ということです。
 

「自転車の乗り方」も「九九」も、
人に説明されてもできるようにはなりませんよね。
 

「料理の進め方」も、
手際よくできるようになるためには経験を積む以外にありません。
 

レシピを見るだけでは、
「手際の良さ」は習得できないのです。
  


そして、重要なことですが、
「文章題の解き方」や「長文の要約の仕方」、
要するに算数と国語の解き方も手続き記憶に含まれます
 
つまり、授業で先生から説明されるだけでは、
全くできるようにはならないということです。
 
インプットにはあまり意味がないのですね。 

自分でやってみて、
うまくいかなかったときに解説を聞くことで、
自分の考え方のどこがいけなかったのかを確認して修正していく。
 
インプットではなく、
そういった「フィードバック」こそが必要になるのです。
 
「泳ぎ方」の習得と同じですね。
 
水泳のコーチは、
泳ぎ方を説明してインプットで泳げるようにしてくれるのではなく、
泳いでいる姿を見て「フィードバック」をして、
泳げるようにしてくれます。
 
算数と国語の勉強においては、
「やってみること」が必須だと覚えておきましょう。
  

  

「漢字の書き取り」って…?

さぁ、それでは最初の話に戻って、
「漢字の書き取りには意味があるのか?」のお話です。
 
じつはこれは場面によって異なります。

市川伸一著「勉強法の科学――心理学から学習を探る」 (岩波科学ライブラリー) より引用

上の表は、さまざまなものを「見て覚えた」場合と、
「書いて覚えた場合」を比較し、
書いた場合にプラスの効果があった場合に〇をつけたものです。
 

×がついているものは、
特に効果がなかったわけですから、
書くのはムダな努力だったということです。
 

つまり、「ダメ学習法」ということですね。
 

これを見ると、
どういった場合に書くことに意味があるのかがわかってきます。
 

無意味な図形やアラビア文字など、
形を思い出すことに困難がある場合には、
書くことに効果があります。
 

形を覚えるのは「手続き記憶」ということですね。
 

それに対して、
熟語を覚えるといった場合は、
書くことの効果はありませんでした。
 

つまり、どの漢字とどの漢字の組み合わせなのかを思い出すことに困難があるだけで、
思い出した漢字を書くことに困難があるわけではなかったということです。
 

熟語は「意味記憶」だったということですね。
 

このことから考えると、
小学校1年生で初めてひらがな・カタカナ・基本的な漢字の「形」を覚えるときには、
書いて覚えることが必要になりそうです。
 

では、小学校中学年以降に新たな漢字を習得するときはどうでしょうか?
 

例えば「鬱」という字を覚えるときについて考えてみましょう。  

この場合にも、
この漢字の形を一つの塊として図形的に覚える場合には、
何度も書いて練習する必要があるでしょう。
 

それに対して、
これをパーツごとに分解した場合にはどうなるでしょうか?
 

「林」の中に空き「缶」捨てて、屋根(ワ)の下で鍋に「米」を入れて、火(「ヒ」)の上にかけて「三」分間。
 

そんな感じで語呂合わせにでもすれば、
熟語を覚えるのと同様に「意味記憶」になり、
書かずに覚えることができますね。
 

日本の漢字の約9割は「意味」と「読み方(音読み)」の組み合わせでできています。
 

こういったタイプの漢字は形声文字と呼ばれます。
 

例えば、晴(セイ)=日+青(セイ)です。
 

晴れているという意味だから、
お日さまの日が部首になり、
セイと読む字がつくりになっているなと分解して考えることができれば、
先ほどの鬱と同じく何度も書かなくても覚えられるわけですね。
 

書くことには少なからず時間がかかり、
また手が疲れることから、
子供は嫌がる場合が多いです。
 

ですから、書かずに覚えられるようにしてあげたいですよね。
 

そのためには、
漢字はパーツの組み合わせでできていることを
感覚的に理解させてあげてください。 

そうすれば、
約9割の漢字は書かずにサラッと覚えることができるようになります

逆にこれがわかっていない子は、
5・6年生で習う「縦」「縮」「裁」「警」「臓」といったちょっと複雑な字はなかなか覚えられずに苦労することになってしまいます。

部首トランプ ©太郎次郎社

パーツの組み合わせでできていることを感覚的に理解させるためには、
小学校に入る前後くらいから、
こういった部首トランプで遊ぶのが効果的です。
(伸学会では親勉アカデミー協会のオンラインショップで売ってたものを使っています)
 

 
道具を使わない遊びも、
工夫次第でいくらでもできます。
 
高学年の生徒たちにやらせて盛り上がった遊びだと、
「1分間でくさかんむりの付く漢字をどっちがたくさん書けるか競争」や、
「漢字のパーツでしりとり(花⇒貨⇒貯⇒町⇒男…)」がありました。
 
 
低学年・未就学児の子なら、
「1分間で新聞の1面からくさかんむりの付く漢字を何個見つけられるか競争」のようにしても良いでしょうね。
  
  
ぜひ日ごろから、
そういった遊びを通じて、
漢字をパーツに分解する目を養ってあげてくださいね。

 
 
最後になりますが、
手続き記憶は習得するのは大変な反面、
一度身につけたらそうそう忘れないという大きな利点もあります

自転車の乗り方は、
数か月自転車に乗らなくても忘れないですよね?

これは国語や算数の解き方も同様です。

多くの場合、手続き記憶の習得は、
手間をかけるだけの価値があります。

漢字の書き取りのような、
無意味な手間だけ削減できるようにしていきましょう。 

まとめ

長期記憶には意味記憶とエピソード記憶と手続き記憶がある。
このうち手続き記憶は「経験」によってしか習得できないので、やってみることが大切。
「文章題の解き方」などは解説を聞くだけじゃできるようにならないので要注意!


  

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こちらの内容は、2020年の3月か4月頃に出版される『小学生の子のためのムダのない勉強法(仮タイトル)』の原稿の1部を抜粋しました。

内容に興味を持たれた方は、発売を楽しみにしていてくださいね。

また、前著『「やる気」を科学的に分析してわかった小学生の子が勉強にハマる方法』は、丸ごと1冊子供を勉強好きにさせるための方法について詳述した書です。
勉強を楽しくしてあげたい方は、ぜひ手に取ってみてください。

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