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もしあなたのお子さんが受験に合格したら、お子さんは「安心」するでしょうか?
それとも「大喜び」するでしょうか?
どちらのタイプかによって、やる気を高めるための働きかけが変わることはご存知ですか?
逆の働きかけをすると、良かれと思ってやったのに、
逆にやる気を殺いでしまうことになるので注意が必要です。
前者のようなタイプは批判によってモチベーションを高め、
困難に直面しても簡単には諦めません。
しかし、目標達成が見えてくると油断が生じ、
モチベーションが下がる場合があります。
後者のようなタイプは称賛によってモチベーションを高め、
目標達成が見えてくると一層やる気になります。
しかし、困難な状況に直面すると諦めがちで、
モチベーションが下がる傾向があります。
なぜこのような違いが生まれるのか?
それは同じ「受験に合格する」という目標を持っていても、
その背景にある思考は子供によって違うからです。
子供の思考パターンは、「親をがっかりさせないように」とか、
「不合格になったらバカだと思われるんじゃないか」といった
心配をしているタイプと、
「この学校に行ったらこんな楽しい学校生活が待っている」とか、
「きっとみんなが喜んでくれる/ほめてくれる」といった
期待や希望を抱いているタイプの、どちらかに分類できます。
コロンビア大学の心理学者トーリー・ヒギンスは、
前者のようなタイプを「防御型」、
後者のようなタイプを「獲得型」と呼んでいます。
「防御型」の思考は、危険を警戒するところから生じます。
そして、責任や義務を果たすこと、既に持っているものを失わないことに注目します。
「獲得型」の思考は、何かを手に入れたいと切望することから生じます。
それは達成や称賛を求めることでもあります。
誰でも両方の思考をしますが、
たいていはどちらかをより強く好み、
それが人生観や目標に作用しています。
受験に合格して「安心」する子は「防御型」、
「大喜び」する子は「獲得型」が強いと言えます。
これらはどちらが優れているというものではありません。
どちらにも長所と短所があります。
ただし、「防御型」と「獲得型」のどちらのタイプかによって
モチベーションが高まる状況が変わるので、
お子さんがどちらのタイプなのかを把握し、
適切な対応を選択していくことが重要になるのです。
兄弟姉妹でタイプが違うこともありますから、
そのような場合には使い分けが必要になります。
このことを示す実験として、ヒギンスと、同じくコロンビア大学の心理学者ハイディ・グラント・ハルバーソンが行った面白い実験があります。
彼らは被験者に難易度の高いパズル的なゲームをさせました。
その際に、被験者に報酬として金銭を与えると告げます。
ただし、グループを2つに分けて、
それぞれのグループで与える条件の伝え方を変えました。
一方のグループでは、成績に関わらず4ドルを与えるが、
上位30%に入った場合には追加で1ドルを与えると伝えます(獲得型の意識付け)。
もう一方のグループでは、成績に関わらず5ドルを与えるが、
上位30%に入れなかった場合には1ドルを差し引くと伝えます(防御型の意識付け)。
つまり、どちらの場合も上位30%に入ると5ドルが、
それ以下の場合には4ドルが得られることになります。
どちらのグループも「1ドル多く稼ぐ」という目標を目指しますが、
意識が異なります。
前者のグループでは
「頑張れば手に入る1ドルを稼ぐ」という獲得型の意識を植え付けられ、
後者のグループでは
「もらえるべき1ドルを守る」という防御型の意識が植え付けられています。
作業が半分経過したところでいったん中断させ、
その時点の成績が上位30%に入っているかどうかのフィードバックを個別に伝えました。
その直後、被験者たちに成功の見込みとモチベーションをたずねたところ、
意識のタイプによって反応が異なることがわかりました。
上位30%に入っていたと伝えられた被験者たちは、
獲得型グループでは成功の見込みとモチベーションがどちらも大きく高まっていました。
一方、防御型グループでは、成功の見込みは変化しておらず、
モチベーションは低下していました。
それに対して、上位30%に入っていないと伝えられた被験者たちは、
獲得型グループでは成功の見込みとモチベーションがやや低下しました。
一方、防御型グループでは、成功の見込みが劇的に下がりました。
ところが、モチベーションは急上昇していました。
防御型の目標では、成功の見込みが下がる=危険な状況において、
逆にモチベーションが高まるのです。
(Jens Forster, Heidi Grant, Lorraine Chen Idson, and E. Tory Higgins, “Success/Failure Feedback, Expectancies, and Approach/Avoidance Motivation: How Regulatory Focus Moderates Classic Relations,” Journal of Experimental Social Psychology 37 (2001):253-60.)
サクセスストーリーと落伍者のストーリーのどちらでモチベーションが上がるか?
これもあなたのお子さんが「獲得型」と「防御型」のどちらのタイプかによって話が変わってきます
「獲得型」であればサクセスストーリーでモチベーションが上がり、
落伍者のストーリーでモチベーションが下がります。
ですから、合格体験記のようなものを読ませるのは有効でしょう。
身の回りで不合格になった人の例を挙げ危機感をあおったりするのは逆効果になります。
模試で合格率30%という判定が返ってきても、
「十分チャンスはある!作戦を考えよう!」という働きかけが良いでしょう。
一方で、「防御型」であれば落伍者のストーリーでモチベーションが上がります。
ですから、身の回りで不合格になった人の例を挙げ危機感をあおったりするのは有効です。
合格体験記のようなものを読ませる場合には、
それによって楽観的な油断が生じないように注意が必要です。
模試で合格率80%という判定が返ってきても、
「5人に1人は不合格になるということ。その1人にならないためにどうする?」
という働きかけが良いでしょう。
ここまでの話はだいたい掴めたでしょうか?
さて、ここからは私の経験上、
困ったことが起こりがちなケースについてお話しします。
親子で「防御型」と「獲得型」が食い違うと、
基本的に良くないことが起こります。
自分と同じ感覚で子供に働きかけると逆効果になるためです。
特に頻度が高いのが、親が「防御型」で子供が「獲得型」というケースです。
往々にして、親は子育てという状況下では「防御型」の思考が強くなります。
子供を危険から守ろうと思うのは当然のことで、
それ自体が悪いというわけではありません。
しかし、子供の思考とズレがあると問題が起こるのです。
防御型の親は、自分が危機感によってモチベーションが高まるので、
子供もそうだと思い込んで危機感をあおろうとしがちです。
子供も防御型であればそれでうまくいきます。
しかし前述のように、子供が獲得型であった場合には、
危機感をあおればあおるほど子供のモチベーションは殺がれます。
そして、自分がその状況を招いているにもかかわらず、
「こんな危機的な状況なのに、子供にやる気が無い。この子の気持ちがわからない」
と嘆くことになるのです。
自分のせいで、子供のモチベーションが低下し、
成功の可能性がどんどん潰れていく。
知らないって本当に恐ろしいと思いませんか?
そうならないように、ぜひお子さんのタイプを見極めて、
上手に導いてあげてくださいね。
それでは、最後に「獲得型」と「防御型」のどちらの傾向が強いかの
心理テストを載せておきます。
現在の思考パターンは、これまでの成功体験によって形成されています。
このテストによって、どちらの傾向が強いかだいたいわかるでしょう。
—
以下の質問について、当てはまる度合いを数字で答えてください。
「まったく当てはまらない」場合は1を、
「よく当てはまる」場合は5を、
それ以外は度合いによって2~4を選んでください。
Q1 懸命に頑張って何かを成し遂げることが多い。
Q2 子供のころは、親が定めた規則に従っていた。
Q3 新しく始めたことを、うまくできる方である。
Q4 人生で成功するために積極的に行動してきたと思う。
Q5 子供のころ、親が許可しないことはしないようにしていた。
Q6 慎重に行動しないと、失敗することがある。
「獲得型」のスコア:質問1・3・4の得点の合計
「防御型」のスコア:質問2・5・6の得点の合計
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どちらのスコアの方が高かったですか?
お子さんとあなた自身の傾向を確認し、
これからの働きかけの選択に役立ててくださいね。
文責 菊池 洋匡
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参考文献