やる気を奪うご褒美の与え方


子供がなかなかやる気にならないからご褒美で釣ってみよう!
いや、でもやっぱりそれはよくないんじゃないか・・・

あなたはこれまでそんな葛藤をしたことが何回くらいありましたか?

今回のテーマは、この伸学会のコラムを昔から読んでくれている人にとっては定番の「ご褒美」と「やる気」の関係についてです。

読者の方から何度か質問があったので、あらためてとりあげてみたいと思います。

今回の記事を読めば、あなたはきっとご褒美で釣ることに対して不安や後ろめたい気持ちを持たずに済むようになるでしょう。

嫌いな科目の勉強に手を付けてくれないあなたのお子さんを、うまくのせることができるようになります。

もしあなたがイライラしながら子供を叱って叱って何とか勉強させるのをやめたいなら、この記事は読む価値があります。

 

さて、最初に書いたように、あなたがご褒美をあげることをためらう理由はなんでしょうか?

それはきっと、「ご褒美が無かったらやる気を出さなくなってしまうんじゃないか?」という心配ではないでしょうか。

これまでのコラムでは、「ご褒美がやる気を損なうことはない」と書いてきました。

しかし、世の中には「ご褒美がやる気(内発的動機)を損なう」と反対のことを言う人たちも多いです。

そのご褒美がやる気(内発的動機)を損なわせる作用には、「アンダーマイニング効果」なんていうもっともらしい心理学用語までついています。

それを見たりすると、「やっぱりご褒美で釣るのは良くないんじゃないか」って迷ってしまいますよね。

そこで、今回はそのアンダーマイニング効果について詳しく説明して、「そんなの普通起こらないでしょ」ということに納得してもらおうと思います。

 

確かにアンダーマイニング効果というものは存在します。

心理学者のリチャード・ニスベットらが、3歳から5歳までの未就学児を対象に行った実験が有名です。

ニスベットらは、子供たちがマーカーペンや他のおもちゃで遊ぶ回数と時間を観察しました。

そして、一部の子供には、マーカーペンで上手に絵が描けたらご褒美をあげると伝えました。

ご褒美について聞かされた子供たちは、他の子たちよりも長時間マーカーペンを使って遊びました。

その後も子供たちを観察し続けたところ、このご褒美をもらった子たちは、ご褒美がないとマーカーペンに全く興味を示さなくなりました。

それに対して、ご褒美をもらわなかった他の子たちは、ずっとマーカーペンでも遊んでいました。

これがご褒美でやる気を損なわせることができる例としてよく挙げられます。

 

これを表面的に見ると、「じゃあご褒美は良くない」という結論になりそうですね。

しかし、このアンダーマイニング効果の発生条件を詳しく確認すると、実は「そんなのありえないでしょ」という内容になっています。

その条件というのが以下の4つです。

1.行動の前に、その行動をすれば報酬が与えられることを予告しなければならない。
2.報酬が遂行に随伴して与えられなければならない。
3.報酬を与えられる前から面白い行動であること。
4.物的な報酬であり、言語的な報酬ではないこと。

はい、3番に注目してください。

「報酬を与えられる前から面白い行動」とありますよね?

あなたがご褒美で釣ってでもやらせたいと思うことは、本人は面白くないと思っているからやらないのではないのですか?

じゃあ関係無いでしょ!

ついでに1番を逆に考えれば、仮に面白いと思っていることに対しても、行動の後でたまたま得られた報酬であればアンダーマイニング効果は起こりません。

家にやってきたおじいちゃんおばあちゃんが「おー!○○ちゃんよく勉強頑張ってるね!よしおこづかいをあげよう!」なんてことをしても、勉強に対してのやる気を損なうことはないのです。

あなたは子供がご褒美無しで放っておいても面白いと思って勝手に頑張るようなことに対して、それを続けたらご褒美をあげると予告して、物的な報酬をあげますか?

そんなこと普通しないでしょ!

だから、「ご褒美で釣っても大丈夫」と私たちは言っているのです。

確かに「ご褒美がやる気を損なうことはない」というのは、厳密に言えば誤りかもしれません。

正確に言うならば、「ご褒美がやる気を損なうことは、現実的にはほぼありえない」ですね。

しかしまぁ結論としては同じわけです。

ですからぜひご褒美を積極的に活用して、やる気(外発的動機付け)を引き出してくださいね。

 

最後になりますが、内発的動機付けを損なう原因としては、ご褒美によるアンダーマイニング効果などよりもはるかにありがちなものがいくつかあります。

例えばお父さんお母さんがやりがちなのが、「監視」や「時間的制約」などです。

客観的には同じような状況でも、「見守られている」とか「注目されている」とか思うと子供はやる気を出しますし、「時間を計る」「目標終了時刻を決める」ことによってもまたやる気が増します。

このやる気がでるかでないかの違いは、管理されている=自分の行動が他者に支配されようとしているかどうかの差です。

人は管理されていると感じると、内発的動機付けが低下してしまうのです。

ですからお子さんの自律性の感覚を尊重し、「選択は自分でした」か、またはせめて「選択に関与した」と思えるようにしてあげてくださいね。

うまく子供のやる気を引き出していきましょう。

 

文責:伸学会代表 菊池洋匡


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参加費 お1人様:2,000円 ご両親:3,000円(お茶・お菓子代含む)
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参考
ハイディ・グラント・ハルバーソン『やってのける――意志力を使わずに自分を動かす』大和書房、2013年