覚えやすい記憶、思い出しやすい記憶

ちょっと想像してみてください。

あなたは今、1周するのに数日かかりそうなわりと大きな無人島で、長らくサバイバル生活をしています。
原因は船が難破したこと。
ともにたどり着いた仲間はみんな死んでしまいました。
ある人は、食料を探しに森に入ったところで大型の猛獣に襲われました。
ある人は、食料になりそうな魚を食べたら、毒に当たってしまいました。
またある人は… 
そうやって仲間を失いながら、あなたは食べても大丈夫な美味しい食料を安全に確保する方法を学習して、何とか生き延び救助を待っています。
何としても生きて帰って、家族にまた会うんだ!
そう強く決意しながら…

私たちの脳はサバイバルに最適化されている

前回のコラムで、長期記憶が保存と検索という2つのメカニズムで動いていることをお伝えしました。
長期記憶は、試験で良い点数を取るためにはとても重要な役割を果たしています。
今回のコラムでは、長期記憶がうまく働くようにする方法の概要についてお伝えしようと思います。

  

その方法を理解するためには、保存と検索のメカニズムは、いつなんのために生まれたのかと関連させて考えるとわかりやすくなります。

実は、私たち現代人の脳は、ホモサピエンスが誕生した20万年前からほとんど変化していないそうです。
その時代の私たちの生活と言えば、狩猟採集生活です。
先ほど想像していただいたような、自然の中で危険な敵を避けながら、食料を探し、食べて、生き延びる生活です。

模試や入試なんてもちろんありません。
私たちの長期記憶の能力は、そういった狩猟採集生活を生き抜くために作り上げられたものなのです。

  

記憶に残るかどうかは、その狩猟採集時代の価値基準で考えたときに「生きるために大切だ」と脳が判断するかどうか次第なわけです。
その時代にはテストなんてありませんから、残念ながら脳は「テストに出る」=「生きるために大切だ」とは判断してくれません。
だから覚えておきたいと思っても、せっかく勉強したことを脳に勝手に記憶から捨てられてしまうんですね。
私たちは自分の脳に、この情報は「生きるために大切だ」と誤認させなければいけないのです。

「生きるために大切」=「???」

では、「生きるために大切」な情報とはいったい何でしょうか?

ここではもっとも重要な2点を覚えておきましょう。それは「よく使う記憶」と「感情を動かされた記憶」です。

  

「よく使う記憶」が思い出しやすいことは、あなたもきっとイメージしやすいですよね。

例えるなら、毎日のようにつかうスマートフォンや財布は、行方不明になりにくいのと同じです。
それに対して、めったに使わない家電製品の保証書や取扱説明書は、いざ必要になっても見つけられなかったりします。
使わないだろうと思って捨ててしまっている(保存されていない)かもしれませんし、どこにしまったかがわからなくなってしまった(検索不能)のかもしれません。

  

これと同じことが、有形な「保証書」と同様に、無形な「知識」でも起こっています。
頻繁に使わないと、私たちの脳はその「知識」を「もう使わないもの」と判断して捨ててしまったり、
あるいは保存はされていても、記憶の倉庫の奥深くで行方不明になってしまい、見つけ出すことができなくなってしまうのです。

何度も復習して、この知識は使うものだと脳に認識させることは、面倒ですが必要なことなのですね。
となると、重要になるのはいかに少ない復習で最大の効果を出すかという工夫になってくるのです。
その工夫についてはいずれまた別のコラムで書きますので、日々の学習に取り入れてみてください。

  

「感情を動かされた記憶」が思い出しやすいこともまた、あなたも感覚的に納得できることでしょう。
1カ月前の晩御飯に自分が何を食べたかは普通は思い出せませんが、
それが誕生日のお祝いのディナーだったり、
旅行先で食べた名物料理であったりしたら話は別です。

嬉しい気持ち・楽しい気持ちによって、その記憶はしっかり保存され、検索されやすくなっているのです。
勉強においても、話が面白い先生の授業は、わかりやすく感じますよね。
面白いことによって、実際に記憶に残りやすくなっているのです。

嬉しい・楽しいといったプラスの気持ちばかりではありません。
悲しい・悔しい・恥ずかしいといったマイナスの気持ちでも、やはり記憶に残りやすくなります。
むしろ記憶に残りやすいのはマイナスの気持ちの方で、研究によるとマイナスの方が、プラスのときの3倍記憶に残りやすいそうです。
嫌な思い出やトラウマは、忘れたくてもなかなか忘れられないのですね。

なぜそうなっているかと言えば、
サバイバルな環境の中で「生きるために大切」なのは、
“命に関わる危険の情報”だからです。
「あそこに行ったら美味しい食べ物があった!」という喜びより、
「あそこに行ったら猛獣に仲間が喰われた」という恐怖の方が、
重要度が高いということです。

だからといって、「これを覚えてなかったからお母さんにめっちゃ怒られた!」という恐怖で、
勉強した内容を記憶に残すようなことはしたくないですよね。
できれば「楽しいから覚えちゃった」という風になってほしいものでしょう。
そこで、子供を勉強好きにさせる工夫が大切になってくるのです。

  

同じ「何度も復習する」ことでも、やり方次第で記憶に残る量は大きく変わることが実験の結果確認されています。
そして、それを楽しみながらできたら一層効果的です。

ぜひ記憶のメカニズムを理解して、脳を上手に働かせられるようになっていきましょう。
そして、要領よく勉強して、テストで高得点が取れる子に育ててあげてくださいね。


こちらのコラムは、現在執筆中の出版第二弾の原稿をコラムように一部書き換えたものです。
こういった内容をまとめて本にしますので、内容に興味を持たれた方は出版を楽しみにしていてくださいね。

また、前著『「やる気」を科学的に分析してわかった小学生の子が勉強にハマる方法』は、丸ごと1冊子供を勉強好きにさせるための方法について詳述した書です。
勉強を楽しくしてあげたい方は、ぜひ手に取ってみてくださいね。