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「お父さん、お母さん。僕はどうしたらいいですか」
そう泣きながら息子が私達に訴えかけたのは、2月3日の22時過ぎ。
受験3日目の午後受験結果発表後のことだった。
◆3年生の終わりごろ。
伸学会への入校を決めたのは、この時期だった。
学童保育の対象期間が終わり、塾にでも通わせるかと思いながら何校か見学をしていたところ、たまたま出会った伸学会の雰囲気を息子が気に入り、「ここに入りたい」という本人の意志を受けて、入学を決めた。
この当時は、明確に中学受験に対する強い意志があったわけではなく、漠然と「いずれ受験するんだろうな」というような気持ちだったように思う。
◆5年生。春。
おかげさまで成績も順調に伸び、ぼんやりとだけれど志望校合格も見えてきた。まだ成績は到達していないもの、今の成長具合でいけばそこにも手が届きそうだ。
親も息子も、安心しながら勉強と遊びに取り組む日が続いていた。
◆6年生。春。
1年前と比べると、どうも成績の伸びが良くない。1年前には第1志望にしようと思っていた学校は相変わらず遠いばかりか、当時は滑り止めにしようと思っていた学校も、今は当落線上のレベルにいる。
成績が伸び悩んでいるというよりは、はっきりいうと、落ちていると言ったほうが正しいように思う。
本人は真面目に塾も通っている。宿題が遅れたり、集中力を欠いたりするときもあったが、それでも本人なりにはよくやっていたと思う。
当の息子は飄々と塾と学校に通う中、親は、ただただ見守るしかできなかった。
◆6年生。夏、秋。
相変わらず、成績は芳しくない。1年前は滑り止め予定だった学校を第1志望に切り替えたが、それでも過去問を解いても合格点に届かず、模試の判定も微妙なラインで、Eではないけれど、ABでもなく、可もなく不可もなくが続く。
この頃になると、親は焦ってくる。夫婦間の考えの違いも浮き彫りになってきた。
自身も中学受験をした父親は、あまり口出ししても仕方ないし、本人の意志ややる気に任せておけのスタンスで、自主性を尊重するといえば聞こえがいいが、見方を変えれば放任で息子の受験に深く関わろうとせずに親としての責務を放置している。
他方母親は、息子のことが心配で宿題や塾の進捗を確認したり、一緒に問題を解いてみたりするものの、それが息子には過大なプレッシャーとなり、父親や息子との口喧嘩も増えていく。
両親が焦る中、息子自身は相変わらず焦る様子もなく、塾で勉強はしつつも、たまに授業中に寝たり宿題をサボったりと、気が抜けている様子も見せながら日々を過ごしていた。
◆6年生。冬。
年末年始も塾に通い、受験生らしい日々を送る。
志望校は塾の先生方と相談しながら、本人の学力と校風を考慮し、何より息子自身の意志を尊重して決めた。
先生方も、「きっと受かると思いますよ!」と心強いエールを送ってくれる。
息子自身も「大丈夫だよ、僕は緊張もしないし、絶対受かるから」と飄々とした様子。
親も、その言葉を信じて、いざ受験に挑むことになる。
このときは、最大の難敵が何なのか、両親も、息子も気づいていなかった。
◆2月1日。受験初日。
午前午後ともに、第1志望の学校を受ける。
科目数、想定合格者数ともに、この日が一番合格確率が高そうだった。
もしこの日に合格できれば、後日チャレンジ校にも挑戦できる。
不安と期待が入り交じる中、試験に向かった。
終了後息子に感想を聞くと、「結構できたと思う」とのこと。
期待と不安が入り混じりつつ、でも大丈夫なんじゃないかという思いを胸に、合格発表を待つ。
結果。午前、午後ともに、不合格。
「できたと思ったけど、そういうこともあるか。でもまだ次があるから!」と気持ちを切り替えて、次の日に向かうことにした。
◆2月2日。受験2日目。
午前に第1志望、午後には第1志望より偏差値が低い学校を受ける。
どちらも終了後息子の完走は「できたと思う」とのこと。
第1志望は前日に比べると狭き門になっているが、それでもまだ合格圏内。午後の学校はかなり安牌。だったはずだった。そう、はずなのだ。
結果。午前、午後ともに、不合格。
さすがに「ちょっとやばいかも」という雰囲気が両親の間に走り、急遽3日目に追加でもう1ランク下げた学校の受験を追加することに決定。
それでも当の息子は、「大丈夫、大丈夫。さすがに明日はいけるでしょ!」との余裕の構え。
◆2月3日。受験3日目。
午前、午後ともに、第1志望の学校よりは偏差値を下げた学校を受験。
終了後、息子は「今日は殆どできた!」とのこと。
さすがにこれは大丈夫だろうということで、合格発表を迎える。
結果。午前、午後ともに、不合格。
6回連続の不合格ということは、2の6乗分の1で1/64という確率(実際は合格不合格は5:5ではないので、こんなことはないのだけど)。ちょっと受け入れがたい現実だった。
「え、なんで…」不穏な空気が家の中を駆け巡る中、塾に不合格の連絡をすると、先生が「ちょっと気になることがありまして…。」と切り出してきた。
先生曰く、受験の時に息子が試験の受けるにふさわしくない態度で臨んでいませんか?とのこと。試験の席に座る姿勢、言動、立ち振舞、試験前後の行動、そうしたテストそのもの以外のところに、落ちている要因があるのではないかとのことだった。
息子に問いただすと、たしかに思い当たる部分はあると。
あぁ、これだったのだ。息子に一番欠けていたのは。
勉強量でも学力でもない。受験を受けるのは、模試とは違い、点数だけで評価されるのではないということ。態度や振る舞い、そうした部分も見られているということ。そして、何が何でも受かるためにはなりふり構わず努力すること。余裕を装ってかっこつけることには、なんの意味もないということ。
そして同時に、これこそが私達両親が、息子に伝えそびれていたことでもあった。
冒頭の、2月3日の夜の話に戻る。
思えば、これが初めて息子がなりふり構わず本気で「合格したい!」という強い意志を示したときだったと思う。
今から何をしたらいいのかを教えてくれという切実な声だったが、親からしたら却って課題はシンプルになった。
単純に点数が足りないのであれば一晩でリカバリーは困難だが、態度や振る舞いが原因の一つなら気の持ちようで変わることができる。
何に気をつけるのか。どう明日を迎えたらいいか。仮に受験がもうなかったとしても、息子が自分の短所に真摯に向き合い、どう自分が変わるかということに真剣に考えることができたという点において、この夜は本当に彼の人生において重要な日だったと思う。
◆2月4日。受験最終日。
前日のことがあったとはいえ、そもそもこの日は非常に倍率が高く、合格のハードルは高かった。
だけれども、ここまで来たのなら、最後に花開いてほしい。
終わったあとの感想は「どうだろう、できたような気もするけど、難しくもあった。でも、今の自分としてはちゃんとやれたと思う」という、余裕なふりをするでもなく、淡々と自分の現実を受け止めるコメント。
あぁ、やはり昨日の出来事は、意味があったのだ。
結果。合格。
6連敗したあと最後に第1志望に合格して、我が家の中学受験は終えた。
おそらくこれを読むご家庭は、こんな態度がどうみたいな低レベルな次元で受験に悩まれる方は少ないと思う。
ただ、それを抜きにしても、以下の点だけは伝えておきたい。
漫画「はじめの一歩」の鴨川源二の言葉ではないが、
希望を捨てなかった者全員が最後のチャンスをモノにできるとは限らないが、
しかし、最後のチャンスを手に入れることができるのは、最後まで希望を捨てなかった者ということは、確実に言える。
これから受験を迎える子どもたち、親御さんたち、どうか最後まで希望を捨てずに、諦めずに頑張って。
どうか皆さんのもとに、サクラ咲くの吉報が届きますように。