昔々あるところに、
ノートに途中式を全く書かない4年生の男の子がいました。
彼は賢い子でした。
本を読むのが好きで、雑学がたくさんありました。
おかげで理科や社会の吸収は特に良かったです。
その賢さのおかげで、
算数も式を書いて情報を整理しなくても
頭の中でそこそこ解けてしまいました。
そのため、ノートに式を書くことをまったくしようとしませんでした。
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見事に答えだけが並ぶ4年生の頃のノート。
うちの子のノートもこんな感じ!というご家庭も多いのではないでしょうか。
改善を促すために、私もいろいろと声をかけました。
「式を書こうね」
「式を書くと複雑な問題も解きやすくなるよ」
「式が書いてあるとどこが間違えたかわかって復習がしやすいよね」
「式を書いてくれると君がどう考えたかわかるからアドバイスしやすいんだけどな」
しかしどれも彼の心には届きませんでした。
そうして改善ができないまま、
1年以上の年月が過ぎていきました。
そんな彼に、
5年生になってついに転機が訪れました。
文化祭などのイベントでいくつかの学校をめぐり、
志望校ができたのです。
この学校に行きたい!
と思う学校がいくつかできました。
その学校のなかの1つは、
途中式を解答用紙に書かせる学校でした。
そこで私は、この機を逃さず、
その学校の入試問題と解答用紙を見せて
こう伝えました。
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「君の受けたい学校は、考え方を評価してくれる。
仮に答えが間違っていたとしても、
式が書いてあって、正しい考え方をしていると採点者に伝われば、
それに対して△がついて途中点がもらえるんだ。
何を隠そう秦先生はそれで開成に合格している。
秦先生が小学生のとき、入試本番が終わった後で塾に来て、
菊池先生と一緒に自己採点をしたんだ。
算数は半分くらいしか正解できていなかった。
考え方はみんな合っていたのに、ミスをしまくったんだ。
でも秦先生は合格した。
間違いなく△で点数を稼げていたからだ。
もし途中式に△がついて点数がもらえる学校じゃなかったら、
そして秦先生がちゃんと式を書く子じゃなかったら、
合格はなかっただろうね。
ところで、君の受けようとしている学校も、
開成と同じように途中式を書かせて△をくれる学校だ。
君はどうする?」
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彼は賢い子でした。
式を書く意義に気づくことができました。
そして、普段練習していないことは本番ではできない
ということを理解する力もありました。
それから彼は式を書くことに取り組み始めました。
彼の中に「やるべき理由」が生まれたのです。
それが突破口になりました。
彼が式を書きながら問題を解いたとき、
私はそれをチェックして、
答えが間違っていても考え方が合っていたら△を与えました。
「君の考え方が正しいということが私にはちゃんと伝わったよ。これならきっと本番も途中点がもらえるね」
そして、考え方に対してアドバイスを行いました。
「この考え方は合っているよ。ここの計算ミスを直せば大丈夫。」
「ここの考え方が違っているね。こういう風に修正すれば良いんじゃないかな?」
「考え方が伝わるから、直すところが必要最小限で済むね!1から直すより楽だね!!」
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彼が式を書いたことをほめたたえ、
そして式を書いたことで楽ができていることに気づかせました。
つまり、彼に「やって良かった」と思わせる働きかけを全力で行ったのです。
その結果、彼は変わりました。
式を書くことが継続しました。
いつのまにか、
式を書くことは、
彼の中であたりまえのことになりました。
6年生になって過去問演習をするころには、
自分で途中式と模範解答を見比べて、
自分で間違えた原因に気づいて
修正することもできるようになっていました。
彼の6年生のときの過去問演習ノートです。
![](https://www.singakukai.com/diary/wp-content/uploads/sites/2/2019/06/WS172-1024x676.jpg)
もちろん、それに合わせて成績も着実に上がっていました。
![](https://www.singakukai.com/diary/wp-content/uploads/sites/2/2019/06/WS173.jpg)
無事受験を終えて卒業した彼ですが、
先日塾に顔を出したときに、
「学校で『間違えた原因を考えてメモしてるんだね。良いね。』って褒められた」
と言っていました。
それを聞いてとても嬉しい気持ちになりました。
受験が終わってもずっと続いている。
それはつまり、「受験のため」ではなく、
「あたりまえ」な『習慣』を育てることに成功したということです。
これで私は、
彼のこれからの学びと成長を
安心して見守ることができます。
多くの保護者や指導者がする失敗に、
「なぜそれをするべきか」
を伝えるだけで終わってしまう、
というものがあります。
だから多くの子供たちは「習慣」までたどりつけません。
「やって良かった」と思わなければ
「またやろう」とならないと思いませんか?
頑張ることは大切なことですが、
「頑張る」ということは「あたりまえ」ではないということでもあります。
言い換えれば、一時的なものであって、
まだ習慣になっていないということです。
人の能力も、人が成し遂げる成果も、行動によって決まります。
一時的にとても頑張るよりも、
習慣的にあたりまえにやっていることのレベルが高い方が、
高い能力を身につけ、大きな成果を成し遂げるのは誰でもわかることです。
例えば、「試験前だから頑張る」子よりも、
「普段から習慣的に勉強している」子の方が
成績が良いものですよね?
あなたのお子さんにも、
良い習慣を身につけさせてあげたいですよね?
そのために必要なのは
「やって良かった」と思わせることです。
では、「やって良かった」と子供が思うようなことを
あなたはこれまでにどれだけやってきましたか?
これからどれくらい増やせそうですか?
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