「神様はまだ私を愛してる?」

「私、怖くないわ。シスター」

ミシェルは言いました。「本当よ」

   

彼女の目には、
この世を去りつつある人が時折見せる、
天使のように穏やかなあのまなざしが浮かんでいました。

  
それを見て、
私は彼女の言葉が真実だとわかりました。
  
私は、触れれば壊れそうな彼女の手を取り、
自分の胸に押し当てました。
  
やせ細った彼女の手は、
小鳥の羽のように軽く感じられました。
  
しっかりとつかんでいないと、
ふとした拍子に天国に向かって
羽ばたいて行ってしまいそうです。
  
彼女は私ににっこりと笑いかけました。
  
部屋中が明るくなるような笑顔です。
   
コヴナント・ハウスにいる子どもたちに
ミシェルの想い出を尋ねると、
一番印象的だったのは彼女の笑顔だ、
という答えが返ってきます。
  
  

彼女は、いつも笑顔をたやさない子どもでした。
  
  
「シスター、1つお願いしてもいい?」
  
「いいわよ。」私は答えました。
  
嗚咽を必死にこらえているせいで、
のどが痛みます。
  
  

「私が死ぬときも、ここにいてくれる?
こんなふうに私の手を握って…」
   
「もちろんよ」
  
  
  

私がミシェルに初めて会ったとき、
彼女はすでにエイズに感染していました。
  
1990年のある晩遅く、
彼女はコヴナント・ハウスの玄関に現れました。
  
がりがりにやせ、
彫りの深い目と漆黒の髪をした赤ちゃんで、
  
ついつられて笑ってしまうような、
引き込まれるような笑顔の持ち主でした。
  
けれども、
そのときすでに、
エイズのあの恐ろしい症状が
彼女の身体をむしばみ始めていたのです……。
  
彼女はよく寝汗をかいて、
眠りながら泣き叫んでいました。
  
次の朝、目覚めたときには、
シーツは下までぐっしょりと濡れていました。
  
彼女はいつもコンコンと咳をしていて、
その咳がおさまることはありませんでしたし、
  
肌が乾燥していくつもうろこ状になったところも、
手の施しようがありませんでした。
  
私たちは、
ここにいる子どもたち全員にしているのと同じように、
彼女に衣服と食べ物と愛情を与えました。

しかし、今回だけはいつもと少し違っていました。

というのは、
彼女の運命は逆らいようがないものだったからです。
  
子どもたちも、私も、スタッフも
そのことを承知していました。
  
遅かれ早かれ、
ミシェルは死ぬ運命にあったのです。
  
  
死や死ぬことについて、
彼女は本当にたくさんのことを知りたがりました。
  
そして、大昔から
神学者や哲学者を悩ましてきたような質問を
矢継ぎ早に私に投げかけました。
  
どう答えていいのか、
私にはわからないような質問も多くありました。
  
「シスター、どうして神様は私にこの病気をくれたの?」
「シスター、神様は麻薬中毒の人でも天国に入れてくれる?」
「シスター、神様はまだ私を愛してる?
 愛してくれたことが1回でもあったのかな?」
  
私にできる精一杯のことは、
自分が信じていることを
ミシェルに伝えることでした。
  
  
神様はどんな人でも、
分け隔てなく愛し赦してくださいます。
  
いつも私たちを見守ってくださっているのよ。
  
あなたがこの世を去るときには、
痛みや苦しみはすっかり消えて、
愛に満ちた神様の優しい腕に抱かれて、
ご両親から一度ももらえなかった
無償の愛に包まれるのよ、
  
といったことを話しました。
  
  
こうしたことを話すと、
彼女は訳知り顔でうなずきました。
  
  

「そうよね。私もそうじゃないかと思っていたんだ。
だから、死ぬのは怖くないの。
天国はすてきな場所で、
もう二度と寂しくなったり
悲しくなったりしないと思うの」

  

「ねえシスター、天国ってどんなところだと
私が思っているか、知ってる?」

  

「どんなところなの?」。
私は尋ねました。

  

「コヴナント・ハウスみたいなところだと思うの」

  

  

ほんの数週間前に、
私たちはミシェルを埋葬しました。

  

あなたも彼女と知り合う機会があればよかったのに、
と思います。

きっと彼女を好きになったでしょう。

私にはわかります……。

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この話は
あるセールスライターが
家出・ホームレスの子どもたちを保護する団体のために書いた

(資金調達のための)セールスレターの一部です。
  

この話もある意味
寄付を募るための売り込みの一部を
担っています。

  

ですが、
率直に言って私はこの物語に
大きく心を揺さぶられました。

  

ミシェルのような子どもを助けたい

コヴナント・ハウスや

そこで働くスッタフたちのために

何か力になりたい

  

という気持ちになりました。

  

きっとあなたもこのような少女を
救いたいと思わずには
いられなかったでしょう。

  

営利団体であろうと
非営利団体であろうと

事業を運営し、
その事業を守るためには

お金が必要です。

  

お金を得るには
相手に行動を起こしてもらう必要があり、

行動を起こしてもらうためには
相手の感情を動かす必要があります。

  

そして人の感情を動かすためには
ストーリーを語るという方法が効果的なのです。

  

例えばアフリカの南スーダンという貧困な国で
飢えにより700万人以上が苦しんでいようと、

シエラレオネ・リベリア・ギニアといった国々で
エボラ出血熱の流行で約11,300人が死んでいようと、

それを何とかするために寄付する人はあまりいません。

  

しかし、今回お話ししたような、
たった一人のかわいそうな子のストーリーに心動かされる人はたくさんいます。

冷静に考えれば、
エボラ出血熱が大流行していることの方が大惨事なのにもかかわらずです。

  

たくさんのデータを示すよりも、
たった一人かわいそうな子に焦点を絞ったストーリーの方が、
多くの寄付が集まります。

   

つまり、

「人は情報には興味を持てない。ストーリーに興味がある。」

ということなのです。

  

なぜこの話を今私はしているのか?

  

それはこの記事を通じて2つのことをあなたに伝えたいからです。

  

1つは、

「歴史を得意にするためには、人のストーリーに注目するようにしよう」

ということです。


こちらのYoutube動画でも解説しましたが、
感想はどうでしたか?

  

  

今回のメルマガを読んだうえでもう一度見ていただくと、

あらためて
「出来事」よりも「人」に注目すべき理由が
よくわかっていただけるんじゃないでしょうか。

  

あなたはきっと

飢餓に苦しんでいる国の名前や
エボラ出血熱が流行した国々の名前はよりも、

「ミシェル」の名前や
「コヴナント・ハウス」の名前の方が、

時間が経ってからも思い出せることでしょう。

  

同じことは子供の勉強においても言えます。

  

あなたがお子さんに、
心が動く歴史人物のストーリーにふれるきっかけを作ってあげれば

お子さんは時間が経ってからも、
テストのときでも、

それを思い出すことができます。

  

つまり、歴史が得意になっていきます。

  

  

もう1つは

「子供を説得するために、ストーリーは効果的だ」

ということです。

  

子供の教育は「説得」の連続です。

  

公共の場で正しいふるまいをするように説得すること。

ゲームやテレビに時間を使い過ぎないように説得すること。

面倒でも1度解いた問題を2度3度と解き直すよう説得すること。

  

あなたはきっと、

悪い行動を減らし、
良い行動をするように、

日々子供を説得していますよね?

  

そのための方法として、

「何を」するべきか指示をするよりも、

「ストーリー」を語って聞かせることは実に効果的なのです。

   

6月に更新したこちらの記事ってもう読みましたか?↓

『ノートの取り方Before→After』
http://www.singakukai.com/diary/guidance/2221.html

  

私たちはこういった「先輩のストーリー」を、

今の生徒にも語って聞かせています。

  

こちらは保護者向けの記事ですから、

生徒に語るときにはもちろん

  

「あの先輩はこんな風にノートの書き方が変わったら、

 こんな風に成績が上がったよ。

 君はどうする?」

  

といった内容に変えるわけですが。

   

  

ストーリーには大きな力があります。

  

ぜひあなたのお子さんの子育てにも

ストーリーの力を役立ててくださいね。