藤井聡太四段の記憶力は本当に凄いのか?

こんにちは。代表の菊池です。

最近、史上最年少で将棋のプロ棋士になった藤井聡太四段が、連勝の新記録を打ち立てて話題になっていますね。

連日メディアに取り上げられ、注目度も高まり、私もひっそりと応援していました。

 

実は私も小学生の頃から将棋は好きで、中学生の時にはけっこうはまっていました。

開成中学校は将棋とか囲碁が好きな人間が多かったように思います。

特に中3の頃は折りしも羽生喜治が7冠を獲って世間が盛り上がり、将棋ブームが来ていたタイミング。

クラスにも将棋好きな友人が多く、クラス内で「6組竜王戦」「6組名人戦」のようにタイトルマッチをやっていました。

あまりにはまりすぎて、授業中もこっそりと隣の席の友達とやったりしていました。

といっても、盤に駒を並べてやったりするわけにはいかないので、暗譜です。

「2六歩」「3四歩」のように口頭でやりとりをし、頭の中で戦い、休み時間になると現状の盤面を再現して続きを打つという日々をおくっていました。(おかげで成績は・・・笑)

そんな私なので、再び将棋が盛り上がっているのにはワクワクしています。

藤井聡太四段にも、今後も連勝記録を更新したり、史上2人目の7冠を達成したりして、いっそう盛り上げてくれるのを期待しています。

 

さて、話が変わってプロ棋士のことが話題になると、セットでよく挙がるのが「記憶力がすごい」という話。

プロの棋士は、棋譜を何百と暗記しているし、対局中の盤面もちらりと見るだけでものの数秒で暗記できてしまいます。

それを指して、プロの棋士になれる人は頭のつくりが違う、選ばれた天才なんだと言われたりします。

果たしてそれは本当なのでしょうか?

「学習の専門家」としてその問いに答えたいと思います。

 

確かに彼らは頭のつくりが常人とは違います。

しかし、それが生まれつき備わった能力かというとそうではありません。

たゆまぬ修練の結果そのような能力を獲得したのです。

選ばれたのはプロを選抜するシステムによってであって、神様によってではありません。

これは様々な研究により、実証されています。

人間が瞬間的に同時に覚えられる情報は7±2が限度とされています。

この短期的な記憶はワーキングメモリと呼ばれます。

この短期記憶力は、活用の仕方を鍛えることはできますが、純粋な意味で記憶力そのものを鍛えることはできません。

無数にある駒の配置を覚えることは、脳科学的に不可能なのです。

 

では彼らはどうやって棋譜を暗記しているのでしょうか?

それは、「ストーリー」で覚えているのです。

あなたにも「白雪姫」や「ピーターパン」など、繰り返し読むうちに丸暗記してしまっているようなストーリーが1つや2つはありませんか?

私の生徒には「三国志」のような長くて登場人物が多いストーリーをやたら細かく覚えているつわものもいます。

訓練を積んだ棋士は、盤面を見たときにその戦いのストーリーが読み取れます。

だから、対局中の盤面を見ると、一瞬で暗記できたりするのです。

このことはチェスマスターを対象にした、とてもシンプルな実験で確認されました。

チェスマスターも同じように、本物の対局を見るとその盤面の駒の配置を一瞬で暗記できます。

しかし、ただランダムに並べただけの駒の配置は一般人と同じくまったく記憶できませんでした。
(William G. Chase and Herbert A. Simon, “Perception in chess” Cognitive Psychology 4 1973 55-81)

訓練を積んだプロの棋士でもチェスマスターでも、ストーリーが無いものを単純に記憶する力があるわけではないということがわかります。

私が中学生のとき暗譜で友達と将棋ができたのも、初手からの戦いの流れをストーリーで覚えていたからというだけで、機械のような正確な記憶力があったわけではありません。

こうして考えると、歴史の勉強においても、チェックペンと赤下敷きなどで丸暗記しようとするよりも、「いつ」「誰が」「どこで」「何を」したのかといったストーリー性を重視して勉強した方が効率が良いことがよくわかりますね。

(次回の親ゼミ資料より)

様々な実験から得られたあらゆる証拠は、初心者レベルのうちはIQが高い方が成長が速いけれど、経験を積むにつれてIQの高さと強さには相関関係が無くなることを示しています。

むしろ、囲碁のトップクラスの棋士を対象にした最近の研究では、彼らのIQの平均値は約93であり、一般人の平均値が約100であったのと比べて低かったということが明らかになっています。
(Boreom Lee and the others, “White matter neuroplastic changes in long-term trained players of the game of “Baduk” (GO): a voxel-based diffusion-tensor imaging study,” Neuroimage. 2010 Aug 1;52(1):9-19)

トッププレイヤーになるにはIQが高いことはまったく有利に働いておらず、むしろ不利に働いているように見えます。

では、IQの高さ・頭の良さが強さを決める要因でないのならば、いったい何が強さを決めるのでしょうか?

 

それはシンプルに「練習」です。

トップレベルになるプレーヤーは、猛烈に練習しているのです。

その中でもさらに、IQが低いプレーヤーの方がたくさん練習する傾向がありました。

それによってIQが高いプレイヤーよりも上達したのだろうと説明されています。

前述のように、初期段階ではIQが高い方が、多少楽に成績を伸ばしていきます。

そして、IQの低い子達は、追いつくためにたくさん練習をします。

たくさん練習をする習慣を身につけた子達は、やがてIQの高い子達を追い抜いていくのです。

まさにウサギとカメですね。

 

これ、受験勉強でも同じことが言えます。

中学受験は生涯学習のほんの初期段階です。

正直に言えばIQが高い子が勝つ場面が目立ちます。

しかし、私の指導経験上、ここでIQの高い子達にくらいつこうと必死で勉強していた子、それを習慣として身につけた子は、大学受験のときには大きく飛躍していました。

私の教え子は、キャリアの初期の子達でもまだ社会人数年目程度なので、それ以降はまだ予想でしかありません。

しかし、そうやって良い習慣を身につけた子は、今後いっそう活躍することは間違いないでしょう。

だから伸学会では、入会試験は原則として行っていません。(周囲の迷惑となる子はお断りする場合がありますが)

入会の段階で学力が低くても、正しい学習法と習慣を身につけさせれば人は伸びていくことを知っているのです。

 

あなたは、自分の大切なお子様に、藤井聡太四段のような活躍する子になってほしいですか?

もしそう願うなら、才能は不要だと科学が教えてくれていますので安心して下さい。

正しい学習法と習慣を身につけさせるために心をくだいて下さいね。

勉強でも音楽などの芸術でもスポーツでも、あらゆる分野に共通する鉄則です。

 

文責 菊池 洋匡

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ちなみにチェスでも囲碁でも将棋でも、ただ対戦を沢山しているだけでは全く能力の向上は見られませんでした。
勉強でも、長い時間机に向かっているように見えるのに成績が向上しないことってありますよね。
能力を上げるための基本原則は、どんな分野でも同じです。
正しい学習法を知りたい方はご参加ください。

第7回 親ゼミ
日程 7月2日(日)
時間 14:00~16:00(受付開始13:30~)
会場 目黒区消費生活センター

JR山手線・東急目黒線目黒駅から徒歩10分
定員 40名
参加費 2000円(お茶代・お菓子代含む)
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参加をご希望でしたら、下記のフォームからお申し込みください。
https://ssl.form-mailer.jp/fms/b8b27d9a477066

 

参考文献
アンダース・エリクソン,ロバート・プール 『超一流になるのは才能か努力か?』文藝春秋、 2016年