「なぜ」子供はその行動をするのか?


「なんで自分から中学受験したいと言い出したくせにちゃんと勉強しないの!?」

小学生のときに何度も母に言われた言葉です。

あなたも同じようなことをお子様に言ったことはありませんか?

「なんで何回ちゃんと片付けなさいって言っても使ったおもちゃを出しっぱなしにするの!?」

「なんで朝起きるの辛くなるってわかってるのに早く寝ないの!?」

「どうしてゲームはやめるって自分で言っておいて未だにやめないの?約束とか守れないの?」

「なんで宿題の期限を守れないの?」

「なんで時間通り行動できないの?」

こんなセリフ、言ったことや言われたこと、最近1か月で何回あったでしょうか?

私は書いていて大分胸が痛くなってきました…(笑)。

言う側も言われる側も、心がザワザワと波立っていて、険しい空気になっている情景がイメージ出来るような気がしてきます。

これらの文は形式としては疑問文ですが、心の波を落ち着けて、冷静になって振り返れば、「実は疑問でも質問でもなく非難(時に侮辱)だったのだ」ということに気付くのではないかと思います。

子どもの行動に対して、このような非難(または侮辱)で応える前に、私たち大人は純粋に疑問としての「なぜ」を考えてみる必要があるのです。

あなたもこの機会に一緒に考えてみませんか?

目次

●「なぜ」子供はその行動をするのか?

実は、子供の行動には子供なりの合理的な理由があります。

確かに子供の判断は、他者視点や時間経過に対する視野が狭かったり、大人よりも感情の振れ幅に左右されがちです。

しかし、子供なりにその視野内で最適と感じた損得計算や価値判断があるのです。

それを前提として子供の視野を我々が想像しない限り、その子供に対して説得的なアプローチを取ることはできません。

ですから、まずはその合理的な理由とは何なのかを考えてみましょう。

●行動のダイヤグラムにあてはめる

そこで、大きなヒントとなるのが「行動のダイヤグラム」です。

行動の結果、環境に好ましい変化があると行動の発生頻度は増えます。

これを行動分析学では「強化」と呼びます。そして「強化」の原因となる変化を「強化子」と呼びます。

この点、純粋な意味での「強化」とは、行動の直後60秒以内に変化を与えることを指します。

60秒以内であれば、たとえ言葉が通じない相手でも、行動と結果の因果関係を学習させて行動を強化をすることができます。

例えば、イルカやアシカの芸に対してエサを与えることが強化です。

水族館でショーを見たことがある方ならお分かりかと思いますが、インストラクターは芸をした動物にすぐにエサを与えています。

行動後にすぐに強化子を発生させることで強化につなげているのです。

ただし人間は、時間的に60秒以上離れていても、行動と結果との間の因果関係を知能によって理解することができます。

だから、行動の後で結果との関係を評価することで、行動の強化(もどき)が起こります。

時間が経つと因果関係の認識が弱くなり、強化の効果は小さくはなりますが、それでも子供が行動する理由を探す時には、多少時間的に離れたものも考慮に入れなければいけません。

●では分析だ!

さて、話を子供の行動に戻しましょう。

ある特定の行動が単発ではなく繰り返し起こる場合、そこには何らかの強化が起こっています。

その行動をして良かったと感じることが何かあるのです。それこそが子供にとっての合理的な理由です。

ここには「目的」が無く、ただ本人が無意識にそう感じているだけということもあります。

例えば、爪を噛む習慣などです。

「爪を噛んで短くしよう」などという目的があるわけではありません。

ただ「噛むと落ち着く」など、何かしらのプラスが、意識してか無意識にか存在しているのです。

もしこの例のように、目的は無く本人も無意識の行動だとすれば、本人もなぜ同じ失敗をしていまうのかわからないこともあります。

そういうときには、叱るのではなく一緒に考えて分析してあげなければ解決はできませんので、特に注意が必要です。

では、何かしらの行動に焦点をあて、その行動の前後の環境をダイヤグラムに書いてみましょう。

例:
口が寂しかった → チョコレートを食べた → 口の中にカカオの香りと甘さが広がって、口の寂しさがまぎれた?
イライラしていた → チョコレートを食べた → 糖分のお陰で気持ちが少し落ち着いた?

●どれが強化子だろう?

強化子となるのは、例にあるようなマイナスの状況の消滅、またはプラスの状況の発生です。

ダイヤグラムを書いてみると、いくつか可能性のあるものが見つかってくることでしょう。

「何かしら理由があるはず」という意識で臨むと、不合理に見える子供の行動にも、ちゃんと理由があることがわかるものです。

そのいくつかの可能性のうち、実際どれが強化子として働いているのでしょうか?(もちろん複数もアリ)

それは、行動の発生頻度を検証してみればわかります。

例えば、「口が寂しい」という状況を発生させないように、ガムをいつもかんでおくというような介入を行い、それでもチョコレートを食べる量が変わらないのであれば、「口が寂しい状況の消滅」は強化子にはなっていないわけですね。

そうやって介入を行わなかった場合(これをベースラインと言います)と、介入を行った場合の発生頻度を比べてみて下さい。

そして、これが強化子だ!というものがわかったら、それを取り除くような介入を行っていけば、望ましくない行動を減らしていくことができるわけですね。

ところで・・・

●「勉強しなさい」は勉強の強化子だろうか?

よく、「勉強しなさいって言わないと勉強しないんです」と言う方がいます。

この言葉には「勉強しなさいと言えば(しぶしぶでも)勉強する」という意味が含まれています。

果たして本当でしょうか?

これもまた検証してみなければ実はわかりません。

1か月程度期間を区切り、その中で言った場合と言わなかった場合で「勉強」という行動の発生頻度を比べてみると、どの程度その声かけに効果があるのかが初めてわかります。

強化子を操作する際は、結果の随伴性(「これをしたらこれが起きるはず」)への期待をはっきりさせるため、即時性と一貫性が重要です。

行動と結果をはっきり結びつける必要があります。

「もっと勉強しなさい!と言われたのはお母さんの機嫌が悪いからだ」と思われないよう、子供がいつどんなときにその行動をとっても同じ対応を取らなければならないのです。

ちなみに一般論としては、「勉強しなさい」という声かけにはあまり効果が無いことが調査の結果分かっています。(※)

父親・母親から男の子・女の子への声かけを、それぞれ組み合わせごとに検証したところ、特に母親と女の子の組み合わせは相性が悪く、むしろ声かけをすることで勉強が減るそうです。

もちろんあくまで一般論で、例外もあります。

だからこそ検証をしてみて、「うちの子の場合」はどうなのかを確認する必要があるのです。

あなたのお子さんの場合はどうでしょうか?

ぜひ検証してみて下さい。

 

他にも、塾生のお母さんに検証してもらった内容で、こんなものがあります。

●「おこづかい」は強化子だろうか?

お金は多くの人間にとって強化子となります。

しかし、必ず万人にとって強化子になるかというと、そうとは限りません。

実際に私の生徒の中で、与えられた特定の課題をクリアするごとにおこづかいがもらえるというルールを家庭で実施したところ、課題のクリアはあまり増えなかった子がいました。

一方で、ご褒美を「おこづかい」から「マインクラフト5分」に変更したところ効果てきめんで、課題のクリアが増えたというご報告がありました。

あなたのお子様には、勉強を促す強化子として、何が効果的に働くでしょうか?

●まとめ

人の行動には必ず理由があります。

しかし、必ずしも目的があるわけではなく、それゆえに本人が自覚しているとも限りません。

あなたは自分で「なんでこんなことしたんだ…」とか、「なんでちゃんとやっておかなかったんだ…」と後悔したことは、どんなことがありますか?

きっといっぱい思いあたることがあるんじゃないでしょうか。

大人でも自分でもなんでかわからない行動なんていくらでもあります。

まして子供であれば、脳も未成熟ですから自分の行動が理解できていないなんて普通のことです。

本人だって目標に反する行動をしてしまう自分に、怒りを感じたり失望したりして苦しんでいるのかもしれません。

「なんでちゃんと勉強しないの?」

「なんでゲームがやめられないの?」

その理由をみつけるために、子供を指導する立場である親や教師が、非難をするのではなくサポートをしてあげましょう。

そうすれば、子供自身も徐々にわかるようになってきますよ。

 

文責:伸学会代表 菊池洋匡

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参考:杉山 尚子(著)/島宗 理(著)/佐藤 方哉(著)/リチャード・W. マロット(著)/マリア・E. マロット(著)『行動分析学入門』産業図書、 1998年
藤田哲也編著『絶対役立つ教育心理学』ミネルヴァ書房、2007年